3月から4月にかけて、人事異動の時期がやってきます。
スーパーや百貨店、卸会社の担当者が入れ替わる季節です。
食品メーカーの社長にとって、この時期は気が抜けません。
これまで丁寧に関係を築いてきたバイヤーが異動になることもあります。
急な連絡で「来月から別の部署へ行くことになりました」と聞くと、肩の力が抜けるような気持ちになります。
長年の信頼が一瞬で途切れるように感じるかもしれません。
けれど、これは悲観する出来事ではありません。
人事異動は、販路拡大の絶好のチャンスです。
食品業界では、担当者が変わることで取引の流れが一気に変わります。
前任の方と相性が合わず取引が進まなかった会社でも、新しい担当者が来れば空気が変わります。
新しいバイヤーは「自分の成果を出したい」「新しい取引先を見つけたい」と考えています。
だからこそ、提案を受け入れてもらいやすい時期なのです。
社長が覚えておくべきポイントは、二つです。
一つは、情報の早さ。
もう一つは、初動の丁寧さです。
まず情報の早さ。
異動が正式に発令される前に、いかに情報をつかむかが勝負です。
日頃から取引先の担当者と会話をしていれば、異動のうわさは必ず耳に入ります。
「〇〇さん、今期は異動の対象かもしれません」といった小さな話でも、そこに動くきっかけがあります。
情報をつかんだら、すぐに次の一手を考えましょう。
新担当者の名前、前職、担当エリア、どんな商品ジャンルに関心があるか。
これらを早めにリサーチしておくと、初回の商談がスムーズになります。
次に初動の丁寧さです。
新しい担当者に最初から強く売り込むのは逆効果です。
相手はまだ前任者の方針を把握していません。
急に提案を詰め込むと、混乱させてしまいます。
まずは「ご挨拶」と「現状の共有」から。
「これまで〇〇様にお世話になってきました。今後も御社と一緒に売場を育てたいと思っています。」
この一言で印象が大きく変わります。
焦らず信頼を積み上げることが販路拡大の近道です。
人事異動は取引の「停滞」ではなく「再スタート」です。
前任者との関係が良好であれば、新担当者にも丁寧に引き継がれることが多いです。
逆に、関係があまり深くなかった取引先ほど大きなチャンスがあります。
過去に断られた提案でも、担当が変われば通ることがあります。
「この案件ですが、改めてご提案させていただけませんか?」
この一言が、新しい販路の扉を開きます。
競合もこのタイミングを狙っています。
スーパーのバイヤー交代時期には、営業マンが一斉に動きます。
その中で選ばれる会社になるには、スピードと誠実さが欠かせません。
電話よりもまずは手書きの挨拶状を送る。
その数日後に丁寧なメールで「ご挨拶の件、改めてお時間を」と連絡する。
この順序が意外と効きます。
社長自らが一言添えると、印象はさらに強く残ります。
最近は、4月だけでなく5月や10月に人事異動をずらす企業も増えています。
引き継ぎ期間を長く取りたい会社が増えているためです。
つまり、人が動くタイミングは春だけではありません。
年に数回チャンスがあると考え、社内でも情報共有の仕組みをつくっておくといいです。
営業担当に任せきりにせず、「異動情報リスト」を社内で更新しておくと、社長の判断も早くなります。
ある地方の水産加工会社では、取引がなかった大手スーパーの担当者が異動したタイミングで、
社長がすぐに新担当者に連絡を入れました。
「以前から御社の売場を研究しており、〇〇コーナーに合う商品を提案したい」と伝え、サンプルを送付。
その後、2回目の商談で採用が決まり、翌年には定番商品になりました。
タイミングを逃さず動いたことで、年間の出荷量が2倍になりました。
逆に、動かない会社は何も変わりません。
「前の担当がいなくなったから仕方ない」と嘆くだけで終わる。
そうしているうちに、競合が先に関係を築き、取引が固まってしまいます。
ビジネスは待っている人ではなく、動く人にチャンスが来ます。
人事異動をきっかけに取引先を整理するのも有効です。
「もう数年動きがない」「価格ばかり要求してくる」
そんな会社とは距離を置き、新しいパートナーを探す。
これは守りではなく、攻めの経営です。
関係が薄くても、信頼できる担当者と出会えれば、そこから販路が広がります。
人が変わると、会社の空気も変わります。
だからこそ、社長が柔軟であることが大切です。
相手の変化を恐れず、自社も変わる。
新しい担当者に合わせた提案書をつくり直す。
サンプルも見直す。
それが販路拡大の第一歩です。
変化を味方にする社長ほど、成長します。
人事異動は不安ではなく、出会いの合図。
新しい担当者の最初の相談相手になれれば、もう一歩リードです。
取引先の組織が動く時期こそ、自社の営業力を見せる最大の舞台。
春の人事異動を「変化の風」と捉え、前向きに行動してください。
その一歩が、次の販路を切り開きます。
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