値引き営業をやめた瞬間から、売上は伸びはじめる

食品会社の経営者にとって、値引きは避けて通れないテーマです。
展示会や商談会、スーパーや卸との打ち合わせで、ほぼ必ずと言っていいほど出てくる言葉が「
もう少し安くできませんか」。

その一言に、社長は悩みます。
断れば注文を逃すかもしれない。
応じれば利益がなくなる。

経営判断としてどちらも苦しい。

多くの会社がこの瞬間に「今回は仕方ない」と値引きをしてしまいます。
一時的に売上は立ち、営業会議では「今月も目標達成です」と数字が並ぶ。

けれども、その数字の中身を見れば、利益は残っていない。
本来は「売上」ではなく「利益」で評価すべきところを、
営業の数字だけで安心してしまう。

これが値引き営業の怖いところです。

一度安く売ると、次回もその価格が基準になります。
「この前はこの価格だった」と言われるのは当然です。

それを上げるのは非常に難しい。
相手から見れば、同じ商品で高くなる理由がないからです。
安くなった価格は、もう元には戻りません。

値引きで取った取引先は、値段でしか動きません。
他社が1円でも安ければ、すぐにそちらに乗り換えます。
値引き営業は、相手の財布にしか届かない営業です。

本当に届かせたいのは、相手の信頼の中です。
信頼でつながる取引は長続きし、次の紹介や新しい販路へもつながります。

中小の食品会社が値引きで勝てる相手はいません。
全国の大手メーカーは、原材料の仕入れから物流までコスト構造が違います。
そこに値段で勝負すれば、疲弊するだけです。

本来、地域食品会社の強みは安さではなく違いにあります。
原料のこだわり、製法の丁寧さ、地域の物語。
それをどう伝えるかが営業の核心です。

営業担当が取引先から値引きを求められたとき、
その場で「安くできます」と言ってしまうと、取引先は「この会社は下げられる」と覚えます。
次も、また次も、同じ要求が続きます。

営業が頑張るほど、値段が下がっていく。
こんな悪循環に入ってしまうと、会社全体が疲れていきます。

逆に、「うちは安くできません」と言い切れる会社は、取引先から一目置かれます。
なぜなら、その言葉には自信と理由があるからです。

「この価格は高く見えるかもしれませんが、品質を保つためには必要な金額です」
「この製法だからこそ、味が安定しているんです」
そう伝えられる会社は信頼されます。

取引先も“

安さではなく理由を求めています。

営業で大切なのは、価格を下げることではなく、価値を上げること。
提案の仕方を変えるだけで、同じ商品が全く違う見え方になります。

たとえば、「このドレッシングはうちの畑でとれた野菜を使っています」と話すよりも、
「このドレッシングを使うと、サラダが店頭で長持ちしやすいんです」と伝える。
同じ商品でも、相手にとってのメリットを見せた瞬間に、価格の話は後回しになります。

値引きをしない会社は、営業が提案力で勝負します。
見せ方、話し方、資料の作り方、すべてに工夫が生まれます。

そして、その工夫の積み重ねが、会社全体の営業力になります。
価格で勝負する営業は限界が早い。
提案で勝負する営業は、時間がたつほど強くなります。

一方で、「値引きしなければ売れない」と思い込んでいる経営者も多いです。

その背景には「市場が厳しい」「競合が多い」「卸がうるさい」など、現実的な事情があります。
けれども、厳しい市場ほど、値引きではなく信頼で勝負すべきです。
価格で取った取引は薄い。
信頼で取った取引は厚い。
同じ取引先でも、後者のほうが長く続き、紹介が生まれます。

値引きに頼る営業は、短期の数字を作るには便利です。
ただ、長期の経営を考えると、最もリスクの高い手段です。

値引きを重ねる会社は、気づかないうちに「自社の価値を自分で下げている」ことになります。
一度下げた信頼は、値上げよりも戻すのが難しい。

逆に、「この価格でも買いたい」と言われる関係を作れたら、
それはもう立派なブランドです。
価格ではなく信頼で売れる会社は、どんな時代にも強いです。

値引きをやめると、最初の数か月は不安になります。
注文が減ったように感じたり、周囲から「強気すぎる」と言われることもあります。

けれども、その期間を越えると、本当に自社を理解してくれる相手だけが残ります。
そこから始まる取引は、安定し、紹介につながり、やがて大きな販路になります。

営業は「売る」ことではなく「伝える」こと。

値引きをして売るのは簡単ですが、価値を伝えて買ってもらうのは時間がかかります。
その時間こそが、会社の力を育てます。

価格を下げるより、信頼を上げる。これが今の時代の販路開拓です。

値引きに頼らない営業は、最初は勇気がいりますが、
続けた会社だけが「価格ではなく信用で選ばれる存在」になります。

値引きをやめた瞬間から、売上は伸びはじめます。
それは、数字の伸びではなく、信頼の積み上げによって生まれる売上です。
本当の意味での販路開拓は、ここから始まります。


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