職人社長がやりがちな“思い優先営業” 買い手が離れる本当の理由とは


東京ビッグサイトでは先日、ギフトショーが開催されました。
全国から食品、雑貨、ギフト関連のメーカーが集まり、多くの商談が行われました。
売り手の情熱と買い手の目線がぶつかり合う、まさに現場そのものです。

展示会や商談会では、社長が自社商品の思いを語る場面が多くあります。
けれど、その「思い」がバイヤーに届かないことがあります。
つまり、売り手と買い手の“気持ちの温度差”があるのです。

今回は、売り手の思いと買い手の思いのズレがなぜ起きるのか、
そしてどうすれば伝わるのかを、食品会社の社長に向けて具体的にお話しします。

  1. 売り手の思いが強すぎるとき

地方の食品会社に多いのが、「手作りの味」「昔ながらの製法」を守る社長です。
品質への誇りがあり、情熱もある。
けれど、売れない。
この原因は、思いの方向が「自分」だけを向いていることにあります。

たとえば、地元では人気の漬物を東京で販売しようとしたケース。
社長は「これがうちの味です」と自信を持って出展しました。
ところが、バイヤーの反応は鈍い。
理由を聞くと「塩分が高く、健康志向の売場には合わない」と言われたのです。

つまり、社長の思いは正しくても、「市場に合っていなかった」。
ここで「味を変えるのはプライドが許さない」と突っぱねてしまうと、販路は広がりません。
思いを曲げるのではなく、「伝わり方」を変えることが必要なのです。

  1. 買い手の思いは「自社の顧客に合うか」

バイヤーはいつも、自社の顧客を見ています。
「自分たちの店に来るお客様が、この商品を買うかどうか」
それが判断基準です。

だからこそ、買い手は「どんなお客様が買っているのか」「どの売場で回転しているのか」という具体的な情報を求めます。
社長の思いを伝えるだけでは、商談は前に進みません。
「うちの常連さんは50代女性が中心で、減塩志向が強いんです」
そんな話を聞いた瞬間、社長は「では、うちの減塩タイプを提案します」と返せるようにしておく。
それがプロの商談です。

  1. 思いを伝えるには「相手の立場」を理解する

売り手と買い手がすれ違うのは、どちらが正しいかの問題ではありません。
どちらも正しい。
ただ、方向が違うだけです。

バイヤーは「売場を守る責任」があり、社長は「商品を育てたい情熱」がある。
両者が歩み寄れば、必ず接点は見つかります。

その第一歩は「相手の立場で考える」ことです。
「このバイヤーは、どんなお客様を見ているのか」
「どんなタイミングで新商品を入れ替えるのか」
こうしたことを事前に調べておくことで、会話の質が変わります。

思いを伝えるには、まず“相手の土俵”に立つこと。
商談は説得ではなく、共感づくりです。

  1. 売り手の思いを伝える「言葉の選び方」

商談の場では、話し方一つで印象が変わります。
職人系の社長ほど、自分の言葉で語ろうとしますが、専門用語や感覚的な表現が多いと伝わりにくい。

たとえば「昔ながらの味」ではなく、「無添加で常温保存3か月が可能です」と具体的に伝える。
「手作りです」ではなく、「1日100個限定で製造しています」と数字で表す。
言葉を変えるだけで、思いの信頼性がぐっと上がります。

また、買い手に“選ぶ理由”を与えることも大切です。
「この商品を仕入れると売場がどう変わるのか」「どんなお客様が喜ぶのか」をイメージできるように伝える。
それが、思いを“売上に変える言葉”です。

  1. 思いを「相手に届く形」に変える

思いを伝えるには、3つの方法があります。

一つ目は「ストーリーで伝える」。
なぜこの商品を作ったのか。
どんな苦労を乗り越えて今があるのか。
ストーリーは人の心を動かします。

二つ目は「数字で見せる」。
売上構成比、リピート率、卸先での販売実績など。
データがあると、思いが“信頼”に変わります。

三つ目は「現場で見せる」。
工場見学や動画で製造過程を見せると、バイヤーは「この会社は誠実だ」と感じます。
今はオンラインでも紹介できる時代です。
手間を惜しまない姿勢が、結果として伝わります。

  1. 思いを伝えるほど、利益を生む

「思いばかり語っても儲からない」と思う方もいます。
けれど、伝わる思いは必ず利益を生みます。
なぜなら、買い手の心を動かすからです。

たとえば、「地元の素材を使いたい」という思いを“地産地消・SDGsの文脈”に乗せれば、
企業バイヤーの評価が変わります。
「無添加へのこだわり」を“安全・健康志向”として打ち出せば、全国スーパーの新規取引が見えてきます。

思いは商品そのものよりも、むしろ“販路開拓の武器”です。
伝え方を変えれば、営業成果は劇的に変わります。

まとめ

売り手の思いと買い手の思いがかみ合わないと、どんなに良い商品でも売れません。
けれど、相手の立場を理解し、伝え方を工夫すれば、必ず伝わります。
思いを伝えることは、商品を磨くことと同じです。

食品会社の社長に伝えたいのは、思いを捨てるのではなく、「相手に届く形」に変えること。
それが販路開拓の第一歩です。

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