売上が前年割れしたとき社長が断るべき案件とは|食品会社の利益基準


食品の販路開拓専門家 伊藤です。

前年同月比85%。
試算表の数字が、網膜に焼き付いて離れない。
食品卸、製造、加工。

年商1億から5億。
この規模の社長にとって、15%の欠落は死活問題です。

銀行の担当者の顔が浮かぶ。
「社長、今期の下方修正はどうお考えですか」
あの中途半端に丁寧で、冷徹な声。

次回の面談は来週。
手元の通帳を開く。

現預金は、固定費の2か月分を切っている。
給料日、支払い日。
カレンダーの赤い丸が、自分を追い詰める。

「なんとかしなきゃいけない」
「売上を、1円でも戻さなきゃいけない」

夜中の事務所。
静まり返った工場。
そう思って、社長は焦り始めます。
そして、致命的な間違いをやってしまうんです。

案件を、増やそうとするのです。

「粗利3%低下」の正体
売れない社長は、数字が落ちると「数」に走ります。

展示会での名刺交換。
かつての知り合い。
「どこかいい話はないか」と触れ回る。

そこに、落とし穴がやってきます。
「数量は出せますよ。月間で5000パックは堅い」
「ただ、うちの帳合を通すのが条件です」
「価格は、このラインまで落としてもらえれば」

提示された価格。
原材料は上がっている。
資材も上がっている。
計算するまでもなく、利益は薄い。

でも、売れない社長は食いつきます。

「空いているラインを動かせる」
「売上が立てば、銀行への見栄えがいい」
「現場も、暇よりは忙しい方がいいだろう」

結果、何が起きるか。
半年後の決算。
売上は少し戻った。

なのに、粗利は3%低下。
手元の現金は、前よりも減っている。

「忙しいのに、なぜか苦しい」
これが、何でも受ける社長が陥る底なし沼です。

「それ、うちがやる仕事ですか?」
ある漬物メーカーの社長の話です。
年商3億。
地元の有力スーパーからの特売案件。

「1パック198円で出したい。原価ギリギリで頼む」
社長は二つ返事で受けました。
「次につながるから」
自分にそう言い聞かせて。

現場は地獄でした。
通常ラインを止め、特売品のために人員を割く。
早出、残業。

疲弊した工場長が、社長室に乗り込んできました。
「社長、この仕事、うちがやる意味ありますか?」
「利益も出ない、人も辞めそう。ただのボランティアですよ」

社長は言い返せませんでした。
結局、その案件を3か月続けた結果。

過労でベテランが一人辞めた。
機械のメンテナンスが疎かになり、故障。
修理代で、特売の利益など一瞬で吹き飛びました。

「何でも受ける」
それは、経営判断ではありません。

ただの「拒絶への恐怖」です。
断ったら次が来ない。

嫌われたら終わり。
その恐怖が、会社を食いつぶしていきます。

売れる社長は「引き算」から始める
売れる社長は、違います。
売上が落ちたときこそ、案件を絞ります。

商談の席。
大手チェーンのバイヤーから、高圧的な条件を出される。
「この価格でやれるメーカーは、他にいくらでもあるよ」
普通の社長なら、青ざめて妥当な線を探るでしょう。

でも、売れる社長は、その場で手帳を閉じます。
「そうですか。では、そのメーカーさんにお願いしてください」

「うちは、その価格では社員を食わせていけません」
「品質も落とせません。無理なものは無理です」

一点の曇りもない、拒絶。
相手の顔色をうかがわない。
自分の会社の「利益基準」という、折れない物差しを持っている。

断って良かった、と語る惣菜加工の社長がいます。
「あの時、大手コンビニの無理な値下げ要請を蹴ったんです」
「売上は一時的に3割落ちました。生きた心地がしなかった」

「でも、浮いた時間で、本当にうちを評価してくれる地元の小売店に絞って営業した」
「結果、1年後には粗利が5%上がった。資金繰りも、嘘みたいに楽になったんです」

断ることで、スペースが空く。
空いたスペースに、質の良い仕事が入ってくる。

これは、精神論ではありません。
経営の、物理的な法則です。

数量に飛びつく社長、利益で断る社長
食品の製造現場は、一度動かせばコストがかかります。

水、電気、ガス、人件費。
「数量が出る」という言葉は、麻薬です。

売れない社長は、5,000個、10,000個という数字に目がくらむ。
「薄利多売で回せばいい」
そう言って、現場を追い込みます。

売れる社長は、100個でもいいから「いくら残るか」を厳しく見ます。
「その仕事、利益率は何%だ?」
「配送費を含めて、本当に会社に金が残るのか?」
「担当者の工数はどれくらい取られる?」

現場の混乱、見えないコスト。
それらを全て加味して、基準に満たなければ、どんなに大手が相手でも断る。
その断り方は、冷たいようでいて、実は一番温かい。

社員に無理をさせない。
会社を倒産させない。
その覚悟が、言葉の端々に宿ります。

「うちは、便利屋じゃない」
その一言が言えるか、どうか。

銀行面談の朝に、何を語るか
前年同月比85%。
資金繰りはあと2か月。
最悪の状況。

でも、考えてみてください。
銀行員が見ているのは、表面上の売上だけではありません。

「この社長は、自社の価値をわかっているか」
「垂れ流しの赤字案件を、切る勇気があるか」
そこを見ています。

「売上を戻すために、何でもやります」と言う社長。
「利益が出ない案件を3つ整理しました。その分、ここの利益率を上げます」と言う社長。

どちらに金を貸したいか。
答えは明白です。

焦りは、目を曇らせます。
「何かをしなければ」という強迫観念が、一番の敵です。

今、やるべきことは「足し算」ではありません。
会社を腐らせている「悪い案件」の引き算です。

案件を3つ、捨ててください
明日、事務所に行ったら。
今の取引先リストを、じっくり眺めてみてください。

・無理な値下げを要求してくる会社
・発注が不定期で、現場を振り回す会社
・入金遅れや、理不尽なクレームが多い会社

その中の「ワースト3」を、決めてください。
そして、その3つをどうやって終わらせるか。
それだけを考えてください。

「今月はこれだけ売上があった」という自己満足は、通帳を潤しません。
「今月はこれだけ利益を守った」という自負こそが、会社を救います。

売上が落ちたとき。
社長が最初にやるべきことは、営業電話をかけることではありません。
「断る準備」をすることです。

案件を絞り、利益を死守する。
その一歩が、迷いから抜け出す唯一の道です。

最後に
きれいな戦略はいりません。
ただ、自社の価値を安売りしない。
それだけを決めてください。

まず、案件を3つ減らす。
そこから、経営が始まります。


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