宮城県の洋菓子メーカーが首都圏進出でつかんだ逆転劇


~自社店舗依存から脱却し、販路を広げた成功事例~

1. 地元密着の限界が見えた瞬間

宮城県にある老舗洋菓子メーカーA社は、創業以来30年以上にわたり自社店舗2店舗を中心に売上を伸ばしてきました。地域に根ざしたお菓子づくりと温かな接客で、地元のお客様からの信頼は厚く、口コミや常連客に支えられ安定した経営を続けてきました。

しかし、数年前から状況は変わり始めます。

  • 競合店の相次ぐ進出
    自社店舗の近隣に有名チェーンや人気パティスリーが立て続けにオープン。新しい店への物珍しさやSNS映えを狙う若い層が流れ、客足が減少。やはりコロナの影響も大きい。
  • 展示会の難しさ
    販路拡大を目指し、バイヤー商談会や東北地方の食品展示会に出展するも、商談は単発で終わるケースが多く、継続的な取引には結びつかない。ノウハウもなく参加するだけでそれ以上の対応はできず。

さらに、立ち上げたばかりの自社ECサイトはほとんど利用されず、サーバー代の回収すら難しい状況。社長は「このまま地元だけでやっていくのは難しいしか」と限界を感じ始めていました。

2. 半信半疑の首都圏挑戦

そんな中、ある取引先から「首都圏のデパート催事に出てみないか」という話が舞い込みます。
しかし、社長は即決できませんでした。

  1. 遠征販売のコスト
    交通費・宿泊費・人件費など、経費がかさむ上に成果は未知数。
    1週間もお店を空けたことがない。
  2. ブランド知名度の差
    首都圏には有名ブランドが数多く存在し、埋もれてしまうのではないかという不安。
    うちの商品が売れるわけがない。

それでも、「現状を打破するには新しいチャレンジしかない」と覚悟を決めます。

3. 商品改良と価格戦略の転換

首都圏で戦うために、A社は徹底した商品見直しを行いました。

  • パッケージデザインの刷新
    地元では親しみやすさを重視していましたが、首都圏向けには高級感を演出。ギフト需要を意識し、素材や色使いにもこだわりました。
  • 価格設定の引き上げ
    地元価格の倍以上に設定。催事出店に伴う手数料や経費を考慮しつつ、高品質の価値を正しく評価してもらうための戦略でした。

価格アップは大きな賭けでしたが、結果的に「安売りしないブランド」としての印象を与えることに成功します。

4. 催事成功を支えた準備の裏側

首都圏初出店に向け、A社は細部まで準備を整えました。
スタッフには催事特有のスピード感や接客方法を共有し、短時間で購買意欲を高める「声かけフレーズ」を練習。什器やPOPは百貨店の雰囲気に合わせ、商品の魅力が一目で伝わるようにデザインしました。
また、試食は一口サイズながらも食感や香りを感じられる形に工夫。これが多くのお客様を足止めし、購買につながる重要なきっかけとなりました。

5. デパート催事での手応え

首都圏の有名百貨店催事に初出店したA社は、予想以上の反響に驚きます。

  • 地元産素材や丁寧な手作り工程が、都会の消費者に新鮮な印象を与えた
  • ギフト需要にマッチし、高価格帯でも抵抗なく購入されるケースが多かった

「また買いたい」「オンラインで買えるの?」という声が相次ぎ、催事終了後には自社ECサイトへのアクセスが急増。固定ファンが生まれ、継続的な注文が入り始めました。

6. ECで売れるようになった理由

催事で得た名刺や注文履歴をもとに、A社は顧客データを分析。パソコンに不慣れな社長も、専門家の支援を受けながら、誕生日や記念日に合わせたメール配信、SNSでの新商品告知など、継続購入を促す施策を展開しました。
さらに、リピート購入者向けの限定セットや送料無料キャンペーンを打ち出し、購入ハードルを下げる工夫を実施。こうした取り組みが相乗効果を生み、ECの売上は月ごとに伸びていきました。

7. 補助金活用でオンライン強化

催事での成功を受け、A社は県の補助金を活用してホームページを全面リニューアル。

  • スマホ対応の最適化
  • 決済方法の多様化
  • SEO対策による検索流入強化

これにより、催事で名刺交換したバイヤーやイベントで購入した顧客がスムーズにリピート購入できる仕組みが整い、新規バイヤーからの問い合わせも増加しました。

8. 社長の気づきとマインド変化

首都圏進出を通じ、社長は「地方の常識は全国の非常識」という事実を痛感しました。地元で当たり前と思っていた価格やデザインも、別の市場では新鮮に映り、価値として評価されることを学びました。
「もっと早く挑戦すべきだった」という言葉が、いまの社長の口ぐせです。

9. 成功のポイント

A社の逆転劇を支えたのは次の4点です。

  1. 市場に合わせた価格戦略
  2. 複数販路の確立
  3. ブランド価値を高めるストーリー発信
  4. 補助金を活用した販促強化

10. 地方企業への教訓

この事例は、多くの地方食品メーカーに共通する課題と可能性を示しています。
重要なのは、「地元での成功モデルが他市場で通用するとは限らない」ことを理解し、市場に合わせた商品・価格・販路を柔軟に変えていく姿勢です。

首都圏進出はリスクも伴いますが、成功すればECやリピーター獲得など波及効果は大きい。A社のように一歩を踏み出す勇気が、未来の売上を大きく変えるのです。



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