岩手の水産加工会社が震災から再建|従業員8名が総菜開発で量販店導入を実現した販路開拓事例


食品の販路開拓専門家・伊藤晴敏です。

今日は、岩手の水産加工会社の支援事例です。従業員8名。家族経営に近い小さな会社です。

東日本大震災で社屋が使えなくなりました。工場が止まるというのは、売上が止まるだけではありません。
取引先に納品ができない。代替の加工場所もない。設備がない。冷凍庫がない。衛生管理の基準を満たす場所がない。
電話も通じない時期がある。そもそも何から手をつけていいかわからない。こういう状態です。

社長は廃業も考えました。社長の生活があります。従業員の生活があります。住宅ローンもある。家族もいる。
口で言うほど簡単に切り捨てられません。

再起を決めたあとに待っていたのは、震災の後始末より厄介な現実でした。原料の問題です。
さんま、さばの水揚げが安定しない。数量が読めない。単価が上がる。

加工賃モデルだと、原料が高いと利益が薄くなり、数量も取れないので、売上も利益も落ちます。
現場はまじめに働いているのに売上が増えない。社長が一番つらいパターンです。

震災前の主力は、一次加工でした。魚をさばく。下処理する。冷凍で卸す。取引先に合わせた規格で納める。
加工賃なので、基本的に価格を自分で決められません。値上げも通りにくい。現場の作業は重いのに、利益が軽い。
そこに原料不足が重なると詰みます。

最初の訪問で、気合いやストーリーより数字を見ました。何の魚で、何の加工で、いくら粗利が出ているのか。
どの取引先で、粗利が削れているのか。人件費と固定費を引いた後に何が残るのか。
原料が上がった場合の損益分岐がどこに来るのか。原料が上がった瞬間に赤字になる構造でした。

結論ははっきりしていました。一次加工だけでは、将来が描けない。努力で埋まらない穴がある。
価格決定権が弱いことです。

そこで方向転換を決めました。6次化です。単純加工から総菜へ。自社で味付けして、自社名で売れる商品に変える。
家庭で温めるだけの状態にして、惣菜として買ってもらう。ここまでやると、価格を自分で設計できます。
原料が上がったときも、値付けで調整できる余地が増えます。

従業員8名の会社に、商品開発部なんてありません。社長が先頭に立ちます。夜に試作。翌朝に食べて確認。
塩分の感じ、甘み、酸味、香り。魚特有の匂いをどう抑えるか。骨の当たりはどうか。温めた後に水っぽくならないか。
冷めても味が崩れないか。ここは地味な反復です。

同時にやったのが、売り先の決め方です。商品ができてから売る順番だと、たいてい失敗します。
作った商品を売り歩くだけになり、相手の売場に合わない。結果、値引きか返品か棚落ちになります。そこで逆にします。
先に売り先を決めて、その売場に合う形に商品を合わせる。

狙いは、東北で店舗を展開する有名スーパーです。地域の食を大事にしている。地元の取引を長く続ける文化がある。
担当者が現場を見て判断する。この条件が揃っている会社です。

商談で話したのは、泣き話ではありません。苦労話は心を動かします。売場は数字で判断されます。
棚は数字と継続性で増えます。担当者が知りたいのは、定番として続くかどうかです。欠品を出さないための在庫日数を提示しました。

まず、供給の考え方です。さんま一本に寄せない。さば一本に寄せない。魚種を分散する。原料の調達先も一本にしない。
冷凍原料の活用も織り込む。季節で変わる魚の扱いも織り込む。次に、製造の安定性です。

手順を標準化して、誰が作っても味がぶれにくいようにする。最後に、値付けです。安く見せるより、総菜として成り立つ粗利を確保する。
売場で回る価格帯に合わせる。この三つです。

テスト導入は3店舗から始まりました。商品数は2つに絞りました。理由は簡単です。
最初から品数を増やすと、製造も納品も在庫も崩れます。小さな会社ほど、最初は狙いを絞る方が強い。

初月、数字は伸びませんでした。味のせいではありません。置き場所です。通路の端。総菜として見られていない。
魚売場の近くに置かれていた時期もありました。買う人が違います。

私は売場の改善を提案しました。総菜コーナーの近くへ移す。夕方のピーク前に補充する。温め方を一言で伝える。
何分、何ワット。ここを明確にする。これだけで動きが変わります。現場は忙しいので、説明が長いと読まれません。短い言葉で十分です。

社長は週末に店頭に立ちました。試食を出す。反応を見る。買う方の声をしっかりメモして記憶しました。
濃い、薄い、匂いが気になる、骨が気になる、もう少し甘い方がいい。こういう声は、会議室では出てきません。売場でしか拾えません。

その声をもとに改良しました。骨の処理を見直す。味付けを微調整する。温めた後の食感を整える。パッケージの文字を読みやすくする。
これも派手さはありません。地味な積み上げです。

3か月後、回転が上がりました。半年で導入店舗が増えました。ここで初めて、会社の空気が変わったと社長が言いました。
努力が数字に変わる瞬間です。

単価は、以前の加工賃商品より上がりました。利益率も改善しました。売上は震災前に完全には戻っていません。
そこは大事な事実です。それでも経営が安定した。ここがポイントです。売上の大きさより、利益です。
返済が順調に進んでいるのは、利益が残る構造に変えたからです。

金融機関との話も変わりました。以前は、原料次第で数字がぶれる。先が読めない。こう見られやすい。
今は、商品と固定のファンを持っている。
価格決定の主導権をにぎっています。継続の仕組みがある。結果、設備投資の相談も進めやすくなります。

この事例の要点は、特別な才能ではありません。外部環境は選べない。漁獲は読めない。原料価格は動く。天候も変わる。
ここは変えられません。

変えられるのは、売り方です。構造です。

小さな会社でもできる理由があります。小さい会社は動きが早い。社長が現場にいる。試作してすぐ直せる。
売場に出てすぐ直せる。決裁が早い。大きい会社が苦手な部分です。

逆に、小さい会社が弱いのは、品数を増やしすぎること。取引先を増やしすぎること。納品を背伸びすること。
ここを抑えれば、十分に勝てます。今回の会社は、最初に絞った。2商品。3店舗。だから続いた。続いたから信用が増えた。
信用が増えたから店舗が増えた。この順番です。

地方だから不利、という話ではありません。地方の会社は背景がある。地域性がある。物語がある。そこを使う。
感情で押すのではなく、売場で回る形に落とす。これができれば強い。

今も同じ悩みを持つ社長は多いです。原料が高い。人がいない。売場が減る。単価が上げられない。値引きを要求される。
返品が増える。どれも外部に原因があるように見えます。

答えは内部にあります。価格を決められる商品か。売り先が確保されているか。継続の仕組みがあるか。
定番化をしていただき、売上を安定させれることです。

岩手のこの会社は、震災から立ち上がりました。奇跡ではありません。売り方を変えただけです。
一次加工から総菜へ。加工賃から自社商品へ。原料に振り回される構造から、加工賃をやめ、自社で売価を決めました。

これが販路開拓です。

同じように苦しい社長ほど、できることがあります。売上を追う前に、利益が残る形に変える。
売り先を決めてから商品を開発していく。最初は絞って続ける。続けて信用を積む。

今日の話は、岩手の8名の会社の話です。規模は小さい。派手さもない。実務だけです。
それでも、返済が進む。生活が回る。従業員が残る。次の一手が打てる。



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