食品業界の営業現場で、既存の取引先から寄せられる要望にどう対応すべきか悩む場面は多いものです。
長年の取引がある相手ほど、その言葉には重みを感じます。
「この味をもう少し薄くして」「パッケージを明るくしてほしい」「納期を短縮できないか」
こうした声に誠実に応えることは大切です。取引を続ける上での信頼関係を保つことにもつながります。
ただ、その一方で「既存顧客の要望ばかりを聞きすぎて、新しい市場を見失う」食品会社が多いのも事実です。
既存取引先の声はあくまで今の満足度を示すものです。将来に向けた成長のヒントを得るには限界があります。
既存顧客の要望に過度に合わせてしまうと、自社の方向性がぼやけ、価格競争や同質化の波に巻き込まれていきます。
食品業界でありがちな例を挙げてみましょう。
ある調味料メーカーが、取引先のスーパーから「もう少し安くしてくれ」と言われ、コストを削って価格を下げました。
結果、一時的に発注は増えたものの、他の仕入れ先も同様の値下げを求め始め、利益率は大きく低下。
そのうえ、新商品の開発に回す資金も減ってしまい、次第に差別化が難しくなりました。
既存顧客を守るための判断が、将来の足かせになってしまったのです。
一方で、既存顧客の意見を一歩引いて観察し、あえて外の声を拾いに行く会社は成長しています。
ある地方の総菜メーカーは、長年取引している地元スーパーの要望には一通り応えつつも、
あえて未取引の都市部のバイヤーにヒアリングを行いました。
「地元の味をそのまま出しても、東京では売れない」と率直に言われ、味付けを調整。
結果、都市圏での新しい販路を獲得し、地元の既存取引先にも
「全国で売れている味」として再提案できるようになりました。
ほかの視点を取り入れたことで、逆に既存取引先からの信頼も強まったのです。
ここで大切なのは、「要望を聞く相手を選ぶ」という考え方です。
既存顧客は、今の取引を正当化するための意見を言う傾向があります。
人は誰しも、自分の選択を否定したくない心理を持っています。
「前回は良かったけど今回はダメ」と言いづらいのです。
だからこそ、既存顧客の声には一定の偏りがあると理解しておく必要があります。
営業戦略を立てるとき、次の3つの視点を意識してください。
- 要望を聞く相手を広げる
既存の取引先だけでなく、取引を検討している新しい業種や地域の担当者にも意見を求める。
「まだ自社製品を知らない人」が感じる第一印象こそ、商品改善のヒントになります。 - 反応の差をデータで比べる
営業先によって、反応が異なるポイントを記録しておく。
「味の濃さ」「価格」「パッケージ」「販促サポート」などの項目別に整理すると、
顧客層ごとの傾向が見えてきます。
エクセルやスプレッドシートで簡単にまとめるだけでも、次の提案内容に差がつきます。 - 改良よりも再設計
既存顧客の要望に合わせた“微調整”は売上を伸ばしにくいものです。
まったく新しい発想から、商品コンセプトを再設計することが中長期の成長につながります。
「既存の顧客が求める改良点」よりも「新しい顧客が驚く提案」を優先して考えてみましょう。
こうした姿勢を持つと、既存顧客との関係も変わります。
「この会社は、うちの言いなりではない」「しっかりと方向性を持っている」と感じてもらえれば、
取引先からの信頼はむしろ高まります。
とくにバイヤーは、流されずに自社の意見を持っているメーカーを評価する傾向があります。
食品会社の営業で成果を出すためには、「取引を続けること」だけを目的にしないことが重要です。
安定した関係を維持しながらも、新しいチャレンジを続ける。
既存顧客を大切にしつつ、そこに依存しない。
このバランスが取れている会社ほど、安定的に売上を伸ばしています。
さらに一歩進めて考えると、営業担当者の行動にも工夫が必要です。
既存顧客の訪問を惰性で続けるのではなく、毎回「新しい提案」を持って行く。
「他社ではこういう動きがあります」「こんなパッケージ事例があります」と情報を共有することで、
相手の発想を刺激します。
単なる注文の受け取りではなく、次の一手を一緒に考えるパートナーとして信頼されるようになります。
もちろん、既存顧客の声をまったく聞かないという意味ではありません。
重要なのは聞いたあと、どう整理するかです。
要望をすべて採用するのではなく、優先順位を決め、自社の戦略に合うものだけを採り入れる。
この選別ができる会社こそ、長く成長を続けます。
たとえば、ある菓子メーカーでは、既存取引先から「もっと日持ちをよくしてほしい」という
要望が多く寄せられていました。
そこで同社は保存料を使うのではなく、個包装の改良で対応しました。
既存顧客の声を受け止めつつ、自社の理念(自然素材にこだわる)を守ったのです。
結果、ブランドイメージを損なわずに販路を拡大できました。
このように「聞く」「取捨選択する」「自社の方針で再構築する」という流れが理想です。
営業活動は、感情や関係に左右されやすい仕事です。
だからこそ、データと戦略で判断する習慣を持つことが大切です。
既存顧客の声を尊重しつつも、盲信しない。
その違いが、売れる会社とそうでない会社を分けます。
最後に伝えたいのは、既存顧客の声は「過去の成果の反映」であるということです。
未来をつくるのは、新しい市場、新しい視点、新しいバイヤーです。
その声を拾う勇気が、次の成長の第一歩になります。
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