暴走老人とビジネスに学ぶ社長の人間力
役所で大声をあげて職員を怒鳴る男性を見かけました。
年配の方でした。
周囲の人は皆、不快な表情。
本人は正しいことを主張しているつもりかもしれませんが、見ていて気持ちのいいものではありません。
その瞬間、私は営業時代の記憶がよみがえりました。
かつて、取引先で同じように怒鳴る人がいました。
どの営業担当者に対しても怒鳴り散らす。
威圧することで自分の立場を強く見せようとするタイプです。
一方的に話を進め、相手をねじ伏せようとする。
話し合いではなく「支配」でした。
そういう相手に時間をかけても、建設的な関係は築けません。
「お得意様」ではなく「暴走顧客」になってしまう。
私は、心の中で静かに線を引きました。
取引をお断りし、その後は一切の関わりを持ちませんでした。
社長や起業家にとって、顧客を選ぶ力は非常に大切です。
誰と組むかで、会社の空気が変わります。
社員のやる気も、取引先の信頼も、人間関係から生まれます。
不快な気持ちのまま進める仕事は、成果につながりにくい。
感情の摩擦が増えるほど、時間もエネルギーも浪費します。
ビジネスは信頼の積み重ねです。
怒鳴って相手を従わせても、長く続きません。
取引は「勝ち負け」ではなく「共に進む関係」です。
信頼が崩れると、どれほど良い商品でも価値を感じてもらえなくなります。
社長自らが冷静に対応し、誠実さを見せることで、会社全体の印象が変わります。
「暴走老人」という言葉は高齢者だけに限りません。
若い経営者でも、感情をコントロールできない人は少なくありません。
ちょっとしたトラブルで部下を怒鳴る、取引先に感情をぶつける、SNSで攻撃的になる。
これらも立派な「暴走」です。
感情が先に出ると判断を誤ります。
ビジネスの世界では、冷静さこそ最大の武器です。
売上を伸ばしている経営者ほど、穏やかで冷静です。
相手の立場を理解しようとする姿勢を持っています。
怒りではなく「聴く力」で問題を解決する。
この「聴く姿勢」が信頼を生み、紹介やリピートにつながります。
営業現場でも同じです。
怒鳴られる経験は、誰にでもあります。
その時こそ試されるのが「人間力」です。
言い返したくなる気持ちを抑え、相手の言葉の奥にある「本音」を探す。
怒りの裏には不安や焦りが潜んでいます。
それを理解し、寄り添える営業担当者は強い。
怒りを鎮め、信頼に変えられる人が、本当のプロです。
社長の姿勢も同じです。
社員が失敗した時に怒鳴ってしまうと、怖くて報告が上がらなくなります。
問題が隠れ、改善が遅れる。
その悪循環を断ち切るのは「怒らない力」です。
冷静に話を聞き、事実を整理し、次の手を一緒に考える。
そういう姿勢が「安心して働ける会社」をつくります。
支援してきた中小食品会社の中でも、社長の感情が安定している企業は例外なく強いです。
社員が安心して提案できる。
取引先も信頼してくれる。
結果として、販路開拓のスピードが上がります。
暴走は年齢ではなく、心の成熟度の問題です。
感情をぶつける人ほど、内面に余裕がありません。
冷静に考えれば、怒鳴って得をすることなど一つもない。
相手をコントロールしようとするほど、関係は壊れます。
人を動かすのは恐怖ではなく「信頼」です。
信頼があれば、社員も取引先も自然と動きます。
経営の現場で本当に求められるのは、派手な言葉よりも「落ち着き」です。
一つ一つの言葉に誠実さがにじみ出る人。
そういう社長が、結局は長く続く。
怒鳴る人が一時的に目立っても、やがて人は離れていきます。
「この人となら安心して取引できる」
その評価こそ最大の営業力です。
食品業界でも、似たような場面があります。
取引先からの無理な納期、値下げ交渉、急な仕様変更。
対応に追われる中で、感情的になってしまう時があります。
そんな時こそ、深呼吸して一歩引くことが大切です。
「相手もプレッシャーの中で動いている」
その前提に立てば、怒りの温度が下がります。
落ち着いた対応は、結果的に信頼を取り戻す近道です。
人間関係を乱す人を相手にするより、冷静で誠実な人と組む方が何倍も生産的です。
限られた時間と労力を、価値ある関係に使う。
それが、成熟した経営者の判断です。
取引先を選ぶ基準を「安定した関係が築けるか」に変えるだけで、仕事の質が大きく変わります。
心が穏やかだと、決断も冴えます。
社長が落ち着いている会社ほど、結果が安定します。
暴走する人を見かけた時は、人生の教材と考えるといいです。
他人の姿から学び、自分の戒めにする。
怒鳴る人を笑うのではなく、自分の中にも同じ芽がないか振り返る。
それが「人間力を磨く経営」です。
冷静に、誠実に、穏やかに。
その姿勢が、信頼と販路を広げていきます。
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