秋田県のうどん製造業が売上減少から販路転換|営業が苦手な会社が百貨店ECに採用された支援事例


食品の販路開拓専門家、伊藤晴敏です。

地方の食品製造業の中には、商品は間違いなく良いのに、年々売上が落ちていくという悩みを抱えている会社があります。
こうした状況に陥る共通点は、営業が苦手であること、
そして自分たちの商品の良さを言葉や形にして伝えるPRができていないことです。
この2つが重なると、どんなに良いものを作っていても、経営がじわじわ苦しくなっていきます。

今回は、私が支援した秋田県のうどん製造業の支援事例をお話しします。

技術はあるが普通のうどんに見られていた現状

この会社は、従業員10名ほどの小さな製麺所です。地元では古くから知られた存在で、主な販売先は地元のスーパーや道の駅でした。
長年培ってきたうどんの製造技術は高く、職人たちがこだわり抜いて作る麺の品質には、社長も社員も自信を持っていました。

それにもかかわらず、売上は年々減少していました。原因は商品そのものではなく、売り方にありました。

最大の問題は、自分たちの技術が外に伝わっていないことです。もう一つは、外へ打って出るための営業ができていないことでした。
社内には営業用の資料がなく、自社商品の強みが整理されていません。
そのため、初めて会うバイヤーから見れば、数ある商品の中に埋もれてしまい、普通のうどんに見えていました。

その結果、いつの間にか商売の中心は業務用になっていました。業務用は一度決まればまとまった量が出ます。
価格競争が激しく、利益率は低くなりやすい分野です。作っても作っても利益が残りにくい体質になっていました。

社長の猛反対から始まった業務用の整理

現状を変えるために、私が最初に提案したのは業務用の整理でした。利益率の低い業務用の取引を少しずつ整理し、
その分、利益を確保できる販路へ移していく計画です。

この提案を聞いた瞬間、社長の顔色が変わり、強く反対されました。

「伊藤さん、そんなことをしたら売上が一気になくなってしまうじゃないか。
長年、うちを支えてくれた取引先をこちらから切るなんて、到底考えられない」

社長の言葉には、経営者としての危機感と、地域での繋がりを大切にする誠実さが入り混じっていました。
売上が減り続けている中で、確実な売上を自ら手放す判断は怖いはずです。

「明日からの工場の稼働はどうなるんだ」「従業員の給料はどうなるんだ」という不安が、
言葉の端々から伝わってきました。義理を欠くことへの申し訳なさもあり、社長は何度も首を横に振りました。

私は社長の迷いを受け止めたうえで、こう伝えました。
「今のままでは、会社を維持する体力が先になくなってしまいます。
今の取引を大切にするためにも、まずは新しい柱を一本作りましょう」

社長への説明と並行して、私は首都圏への販路開拓を同時に進めることにしました。

口下手な営業を補う1枚のチラシ

まず着手したのは、職人の頭の中にしかなかった製造技術の整理です。

具体的にどんな製法で作っているのか
原料の小麦粉は何を選んでいるのか
乾燥工程でどのような工夫をしているのか
食べた時の食感はどう設計されているのか

これらを一つずつ紐解き、パワーポイントで1枚のチラシにまとめました。
凝ったデザインやきれいなキャッチコピーは不要です。事実をそのまま、読み手が納得できる形で紙に落とし込みました。

この会社は、営業が得意なわけではありません。バイヤーを前にして、商品の魅力を言葉で説明し続けるタイプの方は
一人もいませんでした。だからこそ、口下手な担当者の代わりに、その紙が説明できる形にしました。

次に、価格の考え方を見直しました。地元価格と首都圏価格の2つに分けたのです。
地方と首都圏では、流通コストも違えば、買い手が感じる価値の基準も違います。
同じ価格で押し通すと、どちらの市場でも中途半端になります。価格を分けたことで、百貨店などに提案する準備が整いました。

百貨店バイヤーの冷たい反応と、サンプルの衝撃

準備を終え、首都圏の百貨店へ提案に伺いました。最初の反応は冷ややかなものでした。

「うどんですか。うどんなら、全国どこにでもありますよね。うちも十分足りていますよ」

バイヤーは毎日、多くの商品を見ています。ただ美味しいと言って持って行っても、関心を持ちません。
状況が変わったのは、説明のチラシを渡し、その場でサンプルを食べてもらった瞬間でした。

チラシには、なぜこのうどんがこの食感になるのか、乾燥の時間と温度の関係まで記していました。
それを読みながら、うどんを口に運んだバイヤーの動きが止まりました。

「……食感が全然違いますね。これ、乾麺なのに生麺のような粘りがある」
「なるほど、この乾燥工程があるから、この独特のコシが出るわけですか。原料も良いものを使っていますね」

それまで事務的だったバイヤーの目が変わりました。商品力は最初から高いものを持っていました。
伝わる形になっていなかっただけでした。技術の裏付けがあるチラシと、それを証明する味。
この2つが揃ったことで、評価が変わりました。

この商談をきっかけに、法人向けの高級ギフトへの採用、百貨店の公式ECサイトでの取り扱いが決まっていきました。

足かせに気づいた社長の言葉

現在のこの会社の取引構成は、既存の取引先が8、新規の取引先が2という比率になっています。

売上の数字だけを見ると、新規販路はまだ全体の2割です。
利益の面で見ると、この2割の新規販路が会社全体の収益を大きく支えるようになっています。

以前の売上はあるけれど利益が残らない状態から抜け出し、この2割の質の良い取引があることで、
経営の安定感は大きく変わりました。

かつて、業務用の整理に猛反対していた社長は、今ではこうおっしゃいます。

「あの時は、とにかく売上が減るのが怖くて仕方がなかった。利益の出ない無理な注文に応え続けるために工場を回し、
職人を疲弊させていた。今振り返れば、あれは未来へ進むための足かせになっていた取引だったんだと気づかされました」

地方の食品製造業には、商品は良いのに、営業が弱いために損をしている会社があります。

営業が得意である必要はありません。
技術の整理
価格の整理
販路の整理
この3つを丁寧に進めれば、販路は変わります。

今回の事例が、同じように悩む食品会社の社長の参考になれば幸いです。

食品会社の販路開拓とは|売上を伸ばすための基本の考え方

食品会社の販路開拓事例まとめ|地方メーカーが売上を伸ばした実例

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売上が伸びない。人がいない。
営業をどうすればいいのか、わからない。
一度、整理しませんか。

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