販路開拓専門家の伊藤です。
水産加工会社の支援事例を紹介します。
岩手県沿岸部で、地元市場向けの卸売を中心に事業を続けてきた水産加工会社があります。
長年、地元の市場や馴染みの業者との取引だけで売上は成立していました。特別な営業活動はしていません。
浜に魚が上がれば、誰かが買ってくれる。それが当たり前でした。
状況が変わったのは、不漁が続いた年です。サンマやサケの水揚げが激減しました。主要取引先だった地元小売店2社が廃業。
売上は前年比で約18%減少しました。燃料代や資材費は上昇し、利益は急速に圧迫されます。
「地元だけでは持たない」
社長がそう口にしたのが最初の面談でした。
私はまず、魚種や価格の話には踏み込みませんでした。最初に確認したのは加工工程です。
丸魚をそのまま出荷し、市場価格で売る。単価は相場任せ。利益率は低く、交渉の余地もほとんどありません。
販路が地元のみである以上、価格決定権は常に相手側にありました。
「価格を上げる」のではなく、「価格を自社で決められる構造に変えよう」。ここから始めました。
そこで提案したのが、下処理済み鮮魚への転換です。
丸魚販売をやめ、フィレやセミドレス状態に加工し、衛生基準を整えたパッキングで出荷する。
この会社では加工には自信が高い技術を持っています。
ターゲットは首都圏のスーパーや飲食店に設定しました。なぜ首都圏か。
鮮魚担当のバイヤーや飲食店の店長から魚を捌ける人材が不足しているとの課題を聞いていました。
さらに店内加工にかける時間も限られています。
現場では「鮮魚を扱いたいが、手間がかかりすぎる」という悩みが常にありました。
魚を売るのではなく、手間を減らす商品に変える。ここが転換点です。
最初の商談で突きつけられた現実
首都圏への営業を開始した当初、現実は厳しいものでした。ある中堅スーパーのバイヤーとの商談場面です。
社長は自慢のサンマを保冷ボックスに入れて持参しました。「今朝あがったばかりです。鮮度はどこにも負けません」と
自信を持って伝えました。
返ってきた言葉は厳しいものでした。
「鮮度が良いのは分かります。でも、これをうちの店に持ってきて誰が捌くんですか。
鮮魚担当が辞めて、今は未経験者が回しています。丸の魚が10箱届いても、処理しきれません」
さらにこう続きました。
「10キロの魚を捌く人件費と端材の処理時間とか計算したことがありますか。ゴミを捨てるのにもお金がかかります。
そのコストを上回る提案でなければ、うちは動けません」
「魚は豊洲から仕入れているのでとくに不満はありません」
私はその場で理解しました。岩手での常識は、首都圏の現場では通用しない。
丸魚は価値ではなく、作業負担として見られていたのです。
現場の「30秒」を削減する設計
次の商談では、商品を持ち込む前に厨房を見せてもらいました。
流し台のサイズ、まな板の大きさ、盛り付け皿の寸法、スタッフの人数。すべて確認しました。
大きな魚を捌くスペースはありません。仕込み時間も限られています。
岩手に戻り、加工ラインを再設計しました。
・30センチの皿にぴったり収まるフィレ幅
・袋から出してすぐ使える状態
・洗浄と水気取りの工程を簡略化
再商談では、こう伝えました。
「このフィレなら、袋を開けてから盛り付け完了まで30秒短縮できます。1日50食なら、1か月で約750分の人件費削減です。
人件費換算で見れば、単価はむしろ安くなります」
単価交渉ではなく、時間と人件費の提案です。ここで最初の契約を獲得しました。
漁獲量減少を付加価値に変える
不漁についても、私は伝え方を変えました。「獲れないから困っている」ではなく、
「限られた海でしかとれなくなった希少な魚」として提案しました。
あるレストランチェーンには、水揚げ情報を毎日共有する仕組みを作りました。
「今日は5キロ限定のサケが入りました。限定メニューにしませんか」
安定供給できないことを弱点にせず、限定性として提示しました。バイヤーにとっては集客材料になります。
不漁は、見せ方次第で付加価値になります。
転換が生んだ具体的な数字
結果は数字に表れています。
平均単価は従来比約1.3倍。
粗利率は約12%改善。
売上構成の約35%を首都圏取引が占めるようになりました。
地元小売店がさらに1社廃業した際も、首都圏側の受注を増やすことで影響を吸収できました。
価格を市場に委ねる商売から、自社で決められる商売へ変わったのです。
現場に起きた変化
従業員の意識も変わりました。東京の飲食店で「岩手の逸品」として扱われている事実が社内で共有されました。
長くつとめているまさに職人集団、新しいことには100%拒否でしたが
新しい販路をみて若手社員が、自ら断面の美しさを研究するようになりました。
単なる作業ではなく、価値を作る工程だと理解したからです。
不漁のニュースに落ち込むのではなく、「次はどの魚をどう提案するか」を話し合う現場に変わりました。
不漁は止められません。地元市場の縮小も止められません。止められない環境を嘆いても、利益は生まれません。
変えられるのは、売り方だけです。
丸魚を売る会社は多い。現場の時間を削減する商品を設計している会社は少ない。だからこそ価格を握れます。
地元が縮小しているのに、地元だけで戦おうとしていませんか。価格を決められないまま、相場に委ねていませんか。
販路がないのではありません。開拓していないだけです。
魚を売るのではない。時間を売る。労力を減らす。現場を軽くする。それができれば、価格は自社で決められます。
販路は待つものではありません。
相手の現場を見て、自ら作り出するものです。その一歩が、会社を救います。
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