食品の販路開拓専門家・伊藤晴敏です。
沖縄県で牛肉を販売している事業者の支援事例です。従業員は5名。
家族経営に近い体制で、地元の飲食店と自社直売店を中心に販売してきました。
観光地という土地柄もあり、一定の売上は立っていました。昔からの取引先もあり、関係性も安定しています。
外から見れば順調に見える会社です。
実際は売上が伸びない。横ばいのまま数年が過ぎていました。原価は少しずつ上がる。人件費も上がる。
観光客数に左右される月もある。このままでは大きく落ち込まなくても、じわじわと体力が削られていく状態でした。
社長は言いました。
「味には自信がある。」
「取引先からの評価も悪くない。」
「それでも売上が増えない。」
私は最初に売上の中身を細かく見ました。県内比率がほぼすべて。販路が固定されている。新しい取引先はほとんど増えていない。
売上が伸びにくい形になっていました。
味の問題ではありません。売る場所が沖縄県内に限られていることが原因でした。
そこで方向を変えました。首都圏の高級スーパーを狙います。
量販店で価格勝負をするつもりはありません。素材や生産背景を理解し、多少高くても納得して買うお客様がいる売場を選びました。
小さな会社が戦うなら、土俵を間違えてはいけません。
小ロットで高単価を狙う戦略です。
社長は慎重でした。
有名ブランド牛が並ぶ場所で本当に通用するのか。
松阪、神戸、米沢。名前で選ばれる牛肉が並ぶ売場です。不安になるのは当然です。
社長に聞きました。
「御社の牛肉は何が違いますか?」
最初は抽象的な答えでした。脂が軽い。赤身がうまい。沖縄の自然で育てている。
それを具体的にしました。
飼料は何を使っているのか。
出荷まで何か月かけているのか。
脂の特徴はどう違うのか。
赤身の食感はどう説明できるのか。
社長が現場で当たり前に思っていることを、一つずつ言葉にしました。強みを説明できなければ、売場では選ばれません。
社長が普段行っていることが差別化になります。
次に売り方を決めました。
高級スーパーでは売場に置くだけでは動きません。特に新規商品は最初の動きが重要です。
そこで催事での試食販売を行うことにしました。
社長は最初、消極的でした。
沖縄から東京まで出向く負担。
人手不足。
交通費や滞在費。
小さな会社にとって簡単な決断ではありません。
それでも最初は社長自身が売場に立つべきだと伝えました。
口がうまいわけではありませんが、牛を育ててきた本人の言葉は重みがあります。生産現場を語れる人の説明は説得力があります。
紙の資料では伝わらない部分があります。
首都圏の高級スーパーで催事を実施しました。
試食をしたお客様の反応は明確でした。
脂がしつこくない。
赤身の味が濃い。
沖縄でこんな牛肉があるとは知らなかった。
ブランド名ではなく、味と説明で選ばれました。
初回催事の売上は想定を超えました。有名ブランド牛と並んでも数字は負けませんでした。売場担当者の見る目も変わりました。
ここで終わりではありません。
催事は入口です。目的は定番として残ることです。
購入者の動きを追いました。リピートするか。どの部位がよく動くか。単価はどうか。
バイヤーと数字を共有し、改善を続けました。
パッケージの説明を短くしました。沖縄という地域の強みを前面に出しました。味の特徴を一目で伝える表現にしました。
数か月後、定番商品として残りました。
固定客がつきました。
沖縄のあの牛肉ありますか。
前回おいしかったからまた買いたい。
こうした声が継続的に出るようになりました。価格で選ぶ層ではありません。価値で選ぶ層です。
有名ブランド牛肉と価格差はほとんどありません。
結果として売上は安定しました。県内依存から抜け出し、首都圏に新しい柱ができました。観光需要に左右されにくい売上が増えました。
この事例で特別な魔法は使っていません。
広告費を大量にかけたわけではありません。値下げをしたわけでもありません。補助金に頼ったわけでもありません。
変えたのは二つです。
売る場所。
売り方。
地元中心から首都圏へ広げたこと。
とにかく知ってもらう、試食販売会を開催して食べてもらうことです。
小さな会社は地元にとどまりやすい。顔が見える取引は安心です。長年の関係もあります。それだけでは売上は大きく動きにくい。
御社の商品は、今の売場で本当に価値がうまく伝わっていますか。
売れない理由を景気や人口減少のせいにしていないでしょうか。売る場所が合っていないだけというケースは多いです。
沖縄の牛肉屋は、最初は慎重でした。不安もありました。それでも一歩外に出ました。
その結果、固定客をつかみました。安定的な売上を確保しました。事業に余裕が生まれました。
小さな会社でも、有名ブランドと同じ売場で戦えます。
ここで大事なのは、東京に出れば必ず売れるという話ではないという点です。
合わない売場に出れば、逆に傷つきます。
価格帯が合わない。
客層が違う。
説明が足りない。
その状態で撤退すれば、「やはり無理だった」という結論になります。
今回うまくいった理由は、売場の客層と牛肉の特徴が合っていたこと。そして社長自身が売場で説明し、最初の信頼をつくったことです。
売場は選ぶものです。
広げればいいという話ではありません。
御社の商品に合う場所を見極めることが重要です。
地方で評価されている商品は、視点を変えれば都市部でも通用します。
問題は味ではなく、伝え方と場所であることが多い。
必要なのは派手な言葉ではありません。どこで売るかを決めること。最初の一歩を自分で踏み出すこと。
売る場所が変われば、売上の出方は変わります。
社長が動けば、会社は動きます。
御社も一度、売る場所を見直してみませんか。
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売れない理由を、現場と頭の両方から整理したPDFがあります。
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