秋から冬にかけて、食品業界では展示会や年末商談など、人と会う機会が増えます。
ちょうどこの時期になると、私は毎年必ずインフルエンザの予防注射を受けます。
なぜかというと、支援先や関係機関に迷惑をかけたくないからです。
経営者が体調を崩すと、会社全体の動きが止まります。
営業マンが寝込めば、予定していた商談が延期されます。
たった数日休むだけで、売上や信頼の流れが変わってしまうのです。
多くの食品会社では、1件の取引が生まれるまでに何度も足を運び、ようやくチャンスをつかみます。
そのタイミングで体調を崩すことは、自分だけでなく会社の機会損失になります。
一度延期になった商談は、次のチャンスがなかなか巡ってきません。
バイヤーも忙しい。予定がずれると、次に会えるのは1か月後、2か月後ということも珍しくありません。
支援先にも、体調不良がきっかけでチャンスを逃した事例がいくつかあります。
「たかが風邪」と軽く見ていた社長が、取引先との定例ミーティングをキャンセル。
その間に競合メーカーが商談をまとめ、翌月から棚が埋まってしまった。
こうした話は食品業界ではよくあります。
だからこそ、社長自身が「自分の健康を守ることが販路を守ること」と意識してほしいのです。
予防注射を受けない理由としてよく耳にするのは、
痛い、効果が薄い、費用がかかる、自分は丈夫だから大丈夫――。
けれど経営者にとって健康管理は自己責任ではなく、経営責任です。
たとえ効果が100％でなくても、「少しでも感染リスクを減らす」という行動が信頼になります。
営業マンが接種を済ませているだけで、相手から「きちんとした会社だ」と感じてもらえます。
ある地方の食品メーカーでは、全社員に予防注射を義務づけています。
社長はこう言いました。
「健康管理は個人任せにしない。全員が健康で動ける体制を会社でつくる」
結果、冬場の欠勤が減り、商談延期が激減。
営業機会を逃さなくなったことで、年間売上が8％増加しました。
数字で見える効果があるのです。
経営者にとって、取引先からの信頼は財産です。
社長が元気で、社員が健康に動ける会社は、それだけで印象がよい。
「元気に来てくれてありがとう」「安心して任せられる」と言われるようになります。
反対に、体調を崩してドタキャンすれば、その信用は一瞬で失われます。
予防注射にかかる時間は1時間ほど。
費用は数千円。
これで一年間、会社の信用と自分の健康を守れるなら、これほど安い投資はありません。
経営者が自分の体調に無頓着であれば、社員も同じように怠ります。
トップが行動で示すことが、組織全体の意識を変えます。
営業の世界では「元気は実力」と言われます。
声のトーン、表情、姿勢、すべてが成果に影響します。
相手に「この人は信頼できる」と感じさせるのは、プレゼン力よりもまず体調の安定です。
顔色が悪い営業マンより、明るく健康的な印象の人が選ばれるのは当然です。
さらに最近は、食品展示会や商談会でも衛生意識が問われます。
名刺交換のあとに「予防接種はもう済ませましたか？」という会話が出ることもあります。
ここで「まだです」と答えると、相手に不安を与えることがあります。
衛生管理の意識が低い会社だと思われると、それだけで評価が下がります。
健康管理はブランディングの一部です。
社長自身がしっかり体調を整えていれば、その姿勢が社員に伝わり、取引先にも伝わります。
企業文化としての信頼感が生まれ、結果的に商談の成約率が上がります。
私はこれまで多くのの食品メーカーを支援してきましたが、業績の良い会社ほど社長の体調管理が徹底しています。
体調を崩さない、声が明るい、予定を守る――この3点がそろっている会社は、不思議と売上も安定しています。
徳島県にある水産加工会社の社長もその一人です。
この会社では、社長の判断で毎年15名の外国人従業員を含む全員に、
会社負担でインフルエンザの予防接種を受けさせています。
冷凍倉庫や加工場での仕事は体調を崩しやすい環境ですが、ここ3年間はインフルエンザの罹患ゼロ。
体調不良による欠勤もほとんどありません。
社長は「社員を守ることが、取引先への責任」と話します。
この取り組みが続くうちに、取引先のバイヤーからも「衛生管理が行き届いている」「安心して発注できる」と
高く評価されるようになりました。
毎年この季節になると、同業他社からも「どこでワクチンを手配しているのか」と問い合わせがあるほどです。
社員の健康を守る行動が、結果として会社の信頼を広げています。
経営の基本は継続。
継続のためには健康が欠かせません。
インフルエンザ予防注射は単なる医療行為ではなく、経営行動のひとつ。
社長の健康が会社の売上を守る――この意識を持つだけで、仕事の見え方が変わります。
今年も、健康で成果を出す冬を迎えましょう。
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