顧客が決める「本当の競合」とは?―中小企業の販路戦略で見落としがちな視点


中小企業が販路開拓や営業戦略を立てる際、「競合分析」という言葉をよく耳にします。

「当社の競合はA社だと思っている」
「ライバルはB社。あそこには負けたくない」

そうした思いを持つこと自体は自然ですし、戦略を立てる上でも重要な意識です。
その競合企業は本当に「競合」でしょうか?

今回は、「競合は自社が決めるものではなく、顧客が決めるものである」という基本的かつ見落とされがちな視点について、
具体例を交えながら解説します。特に中小食品メーカーの社長にとっては、販路開拓のヒントにもなるはずです。

自社が思う「競合」と、顧客が感じる「競合」は違う

展示会や商談会、日々の営業の中で「競合」という言葉は頻繁に出てきます。

たとえば地方の味噌メーカーが「うちは同じ市内のB社と競合している」と考えることは自然です。
価格も味も、取り扱っているスーパーも似ていれば、どうしても相手が気になる。
バイヤーや消費者がどこを比較して購入を決めているかを見てみると、その予想がズレていることがあります。

たとえば、ある道の駅で味噌を買おうとしているお客様は、次のような比較をしているかもしれません。
「朝ごはんに手軽に使えるものはどれかな」
「インスタント味噌汁とどっちが便利か」
「味噌よりも出汁パックの方が応用きくかも」

つまり、競合は必ずしも「同じジャンルの商品」とは限らないのです。

本当の競合は「機能」や「シーン」で判断されている
商品のジャンルではなく、「その商品で何を得たいか」という目的(価値)や使用シーンから競合を見直すと、
思わぬ発見があります。

たとえば、車を販売する企業の競合はどこでしょうか?
多くの人が思い浮かべるのは、他のディーラーや他社の同車種
実際には「カーシェア」「タクシー」「電車」「自転車」なども比較対象になる

車を買いたい人の目的は「移動手段を得ること」であり、それを満たす選択肢すべてが顧客にとっての競合なのです。

この考え方を食品業界に当てはめてみましょう。

食品業界における「見えない競合」の例
たとえば、あなたが冷凍餃子を製造しているとします。自社が競合だと思っているのは、
同じく冷凍餃子を出している別のメーカー。

でも、実際にお客様が迷っているのは…
冷凍パスタ
総菜売場の唐揚げ
コンビニ弁当
時短調理キット

さらに言えば、「料理したくない」という心理に対しては、ウーバーイーツなどの宅配サービスすら競合になり得ます。

「今日は疲れているからすぐ食べたい」
このニーズに応えようとする選択肢すべてが、実は戦っている相手かもしれないのです。

バイヤーも「視野の広い比較」をしている
私自身、バイヤーとのマッチング支援に関わる中で、よくこんな声を聞きます。

「味はいい。でも冷蔵で管理するのが手間なので、乾物と比較しています」
「競合?いえ、ヨーグルトとプリンと、この商品の3つで棚を考えています」
「魚よりも肉系が今の流れですね。おつまみジャンルで魚は減らします」

ここに、自社の思い込みとのギャップが生まれるのです。

顧客視点で競合を見直すための3つの視点

  1. 購買シーンから逆算する
    「誰が・いつ・どんな気持ちで」自社の商品を手に取るかを想像しましょう。

たとえば、「共働き家庭の平日の夕食」がターゲットなら、競合はコンビニ、冷凍食品、出前アプリ
といったものになります。

  1. 顧客インタビューをしてみる
    店舗での接客時や展示会での商談時に「他にどんな商品と迷われましたか?」と尋ねてみると、
    意外な比較対象が出てくることがあります。
  2. バイヤーや卸の声に耳を傾ける
    実際の棚作りや企画を担う人たちは、「並べる側」の視点で競合を見ています。

自社の製品がどのカテゴリに入れられているのか、どんな商品と一緒に扱われているのかを確認しましょう。

競合再定義は、販路開拓の武器になる
競合を再定義することで、販路開拓に大きな武器が生まれます。

「あの商品とは違います」ではなく、「あの商品と迷った方にこう伝えてください」と商談できる
顧客の心の中の比較表に合わせた提案ができる

棚取りや新規取引先に対して、「自社商品の新たなポジション」を説明できる
結果として、単なる「モノの比較」ではなく、「価値の提案」ができるようになるのです。

競合は選ぶ相手ではなく選ばれる相手

競合は、自社が勝手に決めるものではありません。お客様が選ぶ選択肢の中で、
比較対象にされたときにはじめて“競合”になるのです。

販路開拓の現場で重要なのは、「誰と戦っているか」ではなく
「誰の中で、どう比較されているか」を考えること。

この視点を持つことで、見えていなかった市場が見え、
提案すべき相手・場所・言葉が変わってきます。


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