営業をしていると、「高いね」「他より安くできないの?」という言葉を頻繁に聞きます。
とくに新規商談の場面で見積を提出すると、開口一番に「予算オーバーだ」と言われることも少なくありません。
その瞬間、心のどこかで「少し下げれば決まるかもしれない」と迷いが生まれます。
けれど、価格で譲った取引は、最初から崩れ始めていることが多いのです。
価格を理由に値下げを求める相手には二種類あります。
本気で導入したいが予算を超えている人。
もう一つは、最初から買うつもりがなく、値引きを口実に駆け引きをしている人です。
後者に力を注いでも成果は出ません。値下げに応じても、次はもっと下げろと言われます。
安ければどこでもいいという取引先は、信頼関係を築けない相手です。
食品会社の商談でも同じです。
たとえば、試作の惣菜や調味料を持ち込んだ時に、「うちの標準より少し高いね」と言われる場面。
そこで焦って価格を下げると、「やはり値段次第で動く会社」と見られます。
その瞬間から、主導権は相手に渡ります。
「今回は特別です」と言いながら値引きしても、その言葉は次の交渉で通用しません。
取引先があなたの会社を選ぶ理由は、本来価格ではないはずです。
品質への信頼、対応の早さ、相談しやすさ、そして人柄。
これらの要素が合わさって初めて、取引は長続きします。
だからこそ、見積が高いと言われた時こそ、自社の価値を再確認するチャンスです。
たとえば、ある地方の水産加工会社では、当初バイヤーから「他社より単価が高い」と言われ続けていました。
社長は悩みましたが、価格ではなく「歩留まりの安定」「品質保証の徹底」「納期の柔軟さ」を丁寧に説明し、
比較できない価値を提示しました。
半年後、そのバイヤーは「結局あの会社が一番安心」と発注を再開。
結果的に単価は維持したまま、年間取引額が2倍になりました。
価格より信頼で選ばれた好例です。
営業の現場では、「説明できる価格」を持つことが何より重要です。
たとえば、導入後の効果を数値で示す。
販促支援を提案するなら「売上〇%アップの根拠」「導入後3ヶ月で費用回収可能」という試算を添える。
こうした資料を準備するだけで、印象は大きく変わります。
見積書1枚で終わる提案と、費用対効果を説明できる提案とでは、信頼度がまったく違います。
また、価格交渉を避けるためには「比較されない営業」を意識することも大切です。
複数社見積の比較表に載ると、どうしても価格競争になります。
その前に、相手との関係を築き、提案内容を深く共有しておく。
「この案件はあなたの会社にお願いしたい」と言われる段階に持っていけば、比較されることはなくなります。
食品会社の営業では、「相手の理解度を育てること」も鍵です。
バイヤーの立場では、社内稟議や上司への説明責任があります。
単価が高い理由を説明できなければ、採用を進めにくい。
だからこそ、提案側が「相手が説明しやすい言葉」を用意することが大切です。
「この単価には原料トレーサビリティ管理費が含まれています」
「歩留まりが高くロスが出にくい仕様です」といった具体的な説明が、担当者を助けます。
結果として、値下げ要求が減ります。
もうひとつ大事なのは、断り方の姿勢です。
見積が高いと言われた時に「それでは無理ですね」と冷たく返すと、印象が悪くなります。
理想は「価格を下げるのではなく、内容を整理しましょう」と提案することです。
たとえば、納期を少し長めに設定する、配送回数をまとめる、オプション項目を再確認する。
同じ予算内で実現できる範囲を一緒に考えることで、誠実な会社だと伝わります。
一度きりの取引より、長く付き合える関係を目指すこと。
これが、価格競争を超える営業の本質です。
見積が高いと言われても、自社の強みを理解してもらえれば必ずチャンスはあります。
値下げに逃げる会社は多い。だからこそ、信念を持って価格を守る会社が際立ちます。
さらに付け加えるなら、営業の力量は「聞く力」で決まります。
相手が本当に求めているのは、価格の安さではなく、安心感や成果です。
「どこに不安がありますか」「何を重視されていますか」と丁寧に聞き出すことで、価格の壁は小さくなります。
価格は表面の理由であり、真の理由は別の場所にあることが多いのです。
見積が高いと言われて心が揺れるのは、誰にでもあります。
けれど、価格を守る勇気がある会社ほど、時間がたつほど信用が積み重なります。
安請け合いして短期で終わる取引より、信頼で続く長期契約のほうが会社を支えます。
社長が「この価格には理由がある」と胸を張って言えることが、最も強い営業武器です。
最後にもう一度伝えたいのは、「価格に振り回される社長は、成長のチャンスを逃す」ということです。
見積のやり取りは、単なる数字合わせではなく、自社の価値を伝える場です。
「なぜこの金額なのか」「どんな効果を見込めるのか」を説明できる会社が、取引先から信頼されます。
価格で悩む時間を提案の磨き込みに変える。
その積み重ねが、値下げしなくても選ばれる営業力になります。
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