若手農家を中心にyoutubeを使って
情報発信するケースが多いですね。
費用もかからず、スマホ1つで始められるので
非常に有効な情報発信です。
youtubeの情報発信により
大きな売上をあげている農家も増えています。
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農協などに販売を任せるのではなく、農産物を自分で売ろうと思えば売り先にどうアピールするかが農家にとって大きな課題になる。「YouTube(ユーチューブ)」などのSNS(交流サイト)はそのための有力なツールになる。
奈良県葛城市。市街地を見下ろす山あいの場所に、石井悠勢さんの畑はある。大学生のときに畑を借り、野菜をつくり始めた。
ブロッコリーやトウモロコシ、ダイコン、キャベツなどを栽培し、直売所や産直サイト「食べチョク」などで販売している。周囲には後継者のいない農家も多く、「農地を預かってほしい」と頼まれることが少なくない。
石井さんが育てている珍しい赤いトウモロコシ
栽培面積は3ヘクタール。野菜を中心に栽培する新規就農者としては比較的大きな部類に入る。しかも今後さらなる拡大が見込まれている。石井さんは「どんどん畑を借りて、規模を大きくしていきたい」と話す。
石井さんの取り組みで目を引くのは、ユーチューブを使った情報発信だ。「スマイル葛城農業」のタイトルで、営農の中で日々感じたことや身の回りの出来事などを軽妙な調子で紹介している。動画の数はすでに数十本に達している。
例えば「大学生からはじめる農」の回を見ると、畑をバックに「大学卒業して本格的に新規就農としてやろうかなと思っています」と語る姿を見ることができる。その言葉通り、1年前に大学を卒業して地域の担い手としての道を歩み始めた。
トラックには「スマイル葛城農業」の文字
農業を始めるきっかけは、大学時代に新型コロナウイルスの影響で居酒屋のバイトがなくなったことにある。知り合いの飲食店主から「野菜を持ってきたら買ってあげる」と言われ、畑を借りて試しにダイコンを育ててみた。
収穫したダイコンを持っていくと店主に喜ばれた。だがもっと大きかったのは、自分で食べてみて「メチャクチャおいしかった」ことだ。もともと何かの分野で起業してみたいと思っていた。農業がその対象になった。
借りることができたのは、雑草が茂った畑ばかりだった。新規就農者の多くが直面するハードルだ。だが石井さんには頼もしい応援団がいた。周辺の人が開墾や土づくりを手伝ってくれたのだ。地域を担う若者をサポートしたいという気持ちがあるからだ。石井さんは「自分は本当に運がよかった」と話す。
新規就農者の石井悠勢さん(奈良県葛城市)
栽培技術の面でも後押ししてくれる人が現れた。直売所で知り合ったベテラン農家が、育て方のコツや出荷のタイミングなどを教えてくれたのだ。石井さんが「僕の師匠」と呼ぶこの農家のアドバイスのおかげで、ブロッコリーが品薄になる時期に安定して出荷する技術を身につけることができた。
その傍らでユーチューブも地道にアップし続けてきた。動画を作成する際に心がけているのは「農業が楽しくて、格好良くて、稼げるのをアピールすること」。農作業がきついと思うことはもちろんある。それでも「ネガティブな話を伝えるより、笑いながら楽しくやっている姿を見せたい」と思っている。
個人の娯楽ではなく営農の一環
背景にはユーチューブの制作を個人の娯楽ではなく、営農の一環として位置づけているということがある。頑張っている姿を発信することが、作物の付加価値を高めることにもつながると考えているのだ。「ユーチューブを見てください」というポップをつくり、直売所に置かせてもらったりもしている。
動画を見てくれた人からの反響もある。マルシェに出品したとき、買い物に来た女性から「ユーチューブ、いつも楽しみに見てるよ」と声をかけられた。そのときのことを思い出しながら「僕の最初のファン。うれしかった」と話す。
高齢農家の引退に伴い、「誰が農地を守るのか」が大きな課題になっている。新規就農者が前向きに奮闘している姿を見てもらうことは、地域の共感の輪を広げるうえでもプラスに働く。共感は様々なサポートと販売の両面で、彼を支えてくれる。ユーチューブによる情報発信は、そのための一助になる。
(出所:日経新聞2023年5月27日)