「心理学を営業に活用する」「顧客の心を操る」といった言葉が、最近ビジネスの世界でよく聞かれるようになりました。
こうした情報に触れるたび、楽に有利な条件で商談を進めたいと考える社長の気持ちはよくわかります。
顧客に注文をもらえなければ、営業としては失格です。だからこそ、心理的なテクニックを使ってでも
売上を上げたいという気持ちになるのかもしれません。かつての私も、どうすれば顧客をうまく「だませるか」
「ごまかせるか」、どうすれば交渉で有利な条件を引き出せるかばかりを考えていました。
本当に商談は駆け引きや心理戦なのでしょうか。答えは「ノー」です。
商談の目的は、御社の素晴らしい商品を、それを必要としている顧客に心から喜んで買ってもらうことです。
食品業界の商談で「駆け引き」が通用しない理由
食品業界のビジネスでは、特に「安心」「安全」が重要視されます。その根底にあるのは、
生産者や販売者に対する「信頼」です。
- お客様は「人」を見ています: 御社の商品の味や品質が素晴らしいのはもちろんですが、それを届ける営業担当者や、
会社全体の姿勢もまた、信頼に足るものでなければなりません。例えば、商品の産地や原材料について質問された際、
曖昧な返答をしたり、ごまかそうとしたりすれば、それだけで不信感につながります。 - 長期的な関係が不可欠: 食品業界では、一度取引が始まると、継続的な発注や安定供給が求められるケースが多いです。
小手先の駆け引きで一時的に売れたとしても、不信感が残れば次の注文にはつながりません。
場合によっては、取引先との契約解除や、悪い口コミにつながるリスクもあります。 - 消費者の信頼は会社の命: 御社の顧客は、最終的にその商品を口にする消費者です。
もし、御社が取引先との間で不誠実な対応をすれば、それは巡り巡って消費者の信頼を損なうことにつながりかねません。
会社のブランドイメージを守るためにも、透明性と誠実さは不可欠です。
食品業界の商談は、単なる商品の売買ではなく、お客様の食卓に「安心」と「信頼」を届けるプロセスです。
だからこそ、心理的な策略は逆効果なのです。
正々堂々と向き合う商談が最高の成果を生む
では、どうすれば顧客と正々堂々と向き合い、信頼を築くことができるのでしょうか。
それは、御社の「誠実さ」を徹底的に追求することです。
誠実さとは、具体的に以下の3つの行動に集約されます。
1. 顧客の「本当の課題」を深く理解する
商談の場で、いきなり商品の説明から入っていませんか?
多くの社長や営業担当者は、自社の商品やサービスの強みを一方的に語りがちです。顧客が本当に求めているのは、
その商品が「自分の抱えている問題をどう解決してくれるのか」という点です。
例えば、
- 「既存のサプライヤーのロット数が多すぎて困っている」
- 「新しい商品ラインナップを増やしたいが、コストを抑えたい」
- 「アレルギー対応の商品を探している」
これらの質問を重ねることで、顧客自身も気づいていない「本当のニーズ」が見えてきます。
この段階で、御社が単なる売り込み業者ではなく、真の課題解決パートナーであると認識してもらうことができます。
2. メリットだけでなく、デメリットも正直に伝える
御社の商品がすべてのお客様に完璧な解決策を提供できるわけではありません。
正直に言うと、それはあり得ない話です。もし、御社の商品が顧客の課題解決に「向いていない」と判断したら、
その事実を正直に伝える勇気を持ちましょう。
「申し訳ありません。御社の現状を考えると、当社のこの商品では十分な効果が期待できないかもしれません。」
このような言葉を伝えることは、一見すると機会損失のように思えます。
逆に顧客は「この会社は自分たちの利益のためだけでなく、本当に私たちのことを考えてくれている」と感じ、
圧倒的な信頼感を抱きます。
さらに、御社の商品の「弱点」や「限界」についても、隠さずに伝えることが重要です。
- 「この商品は保存期間が少し短いですが、その分添加物を極力抑えております。」
- 「当社の生産ラインでは、この商品の小ロット生産が難しいため、まとまった数量でのご発注をお願いしております。」
このように、メリットとデメリットを両方提示することで、顧客は自らの判断で納得して購入を決定できます。
その購入には後悔がありません。結果として、リピートや紹介にもつながりやすくなるのです。
3. 約束を守り、期待を超える行動をする
商談中に交わした小さな約束を、疎かにしていませんか?
- 「後ほどサンプルを送ります」
- 「製造ラインのスケジュールを確認してご連絡します」
些細なことのように思えますが、こうした小さな約束を確実に守ることが、信頼の積み重ねになります。
さらに一歩進んで「期待を超える行動」をすることで、顧客は御社への信頼を確固たるものにします。
- 頼まれてもいないのに、顧客の業界の最新動向をまとめたレポートを送る
- 顧客の店舗や売場で、御社の商品がどのように陳列されているかを確認し、改善点を提案する
このような行動は、「この会社は、売上のためだけでなく、
私たちの成功を心から願ってくれている」という強い印象を与えます。
駆け引きを手放し、正攻法で勝つ
「顧客と駆け引きをしない」という姿勢は、単なる精神論ではありません。
これは、御社のビジネスを持続的に成長させるための、最も効果的な戦略です。
一時的な売上を追い求めるのではなく、顧客との間に深い信頼関係を築くことで、
御社は以下のようなメリットを享受できます。
- 長期的な顧客関係の構築: 一度信頼を得た顧客は、御社の熱心なファンとなり、継続的に取引をしてくれます。
- 価格競争からの脱却: 顧客は「安さ」ではなく、「御社だから」という理由で商品を選んでくれるようになります。
- 紹介や口コミの増加: 信頼関係を築いた顧客は、新たな顧客を紹介してくれる強力な「営業マン」になってくれます。
食品業界では、特に信頼が重要です。小手先の駆け引きを手放し、正々堂々と向き合う。
この心がけが、御社の売上を倍増させ、御社を真に「売れる会社」にするための、最大の秘訣なのです。
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