値引きをやめた瞬間に会社が変わる 売れる社長の判断力

営業の現場では、今日も「もう少し安くできませんか」という言葉が飛び交っている。
食品業界に限らず、取引を増やすために値引きを持ちかけられるのは日常だ。

多くの社長が頭を悩ませる。断れば仕事を失うかもしれない。応じれば利益が減る。
どちらを選んでも苦しい。

そんな中で、つい「まずは関係をつくるために今回は安くしておこう」と考えてしまう。
この判断が、一見正しそうに見えて会社の体力を奪う。

短期的には売上が増えたように見えても、その売上の中身は薄い。
利益は残らず、次の取引も同じ条件を求められる。
そして、安さが「その会社の特徴」として定着してしまう。

一度下げた価格を上げるのは、ほぼ不可能だ。
取引先は覚えている。「前はこの値段だった」と言われたら終わりだ。

それでも何とか利益を守ろうとコストを削る。
結果、品質が落ち、現場が疲弊する。
この悪循環が長く続くと、営業の自信も失われる。

値引きは数字を動かすが、会社を弱くする。

利益を削ってまで取った注文は、本当に取引と呼べるだろうか。
営業が動き、商品が出ても、会社の口座にはお金が残らない。
この矛盾を放置したままでは、どんな販路開拓も続かない。

営業とは、本来「安く売ること」ではない。
相手に納得してもらうことだ。

「なぜこの価格なのか」「なぜこの商品なのか」を伝えられる会社は強い。
安さではなく、価値を売る。
その考え方を持つ会社だけが、長く残る。

ある地方の漬物メーカーの話だ。
スーパーから「競合より10円下げてほしい」と言われた。
社長は悩んだ末に、きっぱりと断った。

その代わりに、商品の製法と素材の話をした。
「うちは手作業で漬けています。原料の野菜はすべて契約農家からの直送です」
この説明に担当バイヤーが興味を持ち、売場で試食会を企画してくれた。

結果、値引きなしで売上が増えた。
社長は言った。「値引きをやめたら、うちの話を聞いてもらえるようになった」。

値引きをやめるというのは、単なる価格の問題ではない。
会社の姿勢の問題だ。
「うちは安さで勝負しません」と言い切ることは、自社の信念を示すことになる。

その覚悟を持つ会社は、取引先からも尊敬される。
値段交渉よりも信頼関係を築くことに時間を使うようになる。

一方、値引きを続ける会社はどうなるか。
次第に「数字を作るための安売り」が習慣化する。

営業会議では「売上は上がった」と報告が並ぶが、利益は見ない。
社員は「売れた=成功」と思い込み、値段を下げることに抵抗がなくなる。

その状態は危険だ。利益のない売上は、時間と人材を消耗させる。

値引きをやめた会社は最初こそ静かだが、数か月後に変化が現れる。
無理な取引が減り、残った取引が安定してくる。

営業が提案を考えるようになり、商品をどう伝えるかに頭を使うようになる。
現場の士気が上がり、売場での信頼も高まる。

数字よりも内容を重視する会社に変わっていく。

食品業界で生き残るには、値引きではなく「理由」を持つことが大事だ。
なぜこの価格なのかを、誰が聞いても納得できるように言葉にしておく。

その説明力が営業力になる。
安くしなくても買いたいと思われる会社は、必ず伸びる。

値引きをやめると、不思議と社員も変わる。
「どうすれば選ばれるか」を考え始める。
展示会や商談会で話す内容も変わる。

安さの代わりに、手間や想いを語るようになる。
その姿勢が相手に伝わると、信頼が積み重なる。

営業とは、人と人の関係をつくる仕事だ。

価格で取った関係は、他社に奪われる。
信頼で取った関係は、他社に奪われない。
この違いが、会社の寿命を決める。

値引きをしない会社は、時間が味方になる。
数年かけて信頼を積み重ねた関係は、簡単には崩れない。

値引きで取った売上は一瞬だが、信頼で取った売上は何度も続く。
この差が、数年後の財務に表れる。

営業数字を追うことは大切だが、それだけでは経営は安定しない。
本当に見るべきは「利益の質」だ。

値引きで得た売上より、正規価格で得た信頼のほうが会社を支える。
安く売る営業は短距離走、価値を伝える営業はマラソンだ。
長く走り続けるには、後者しかない。

社長が値引きをやめると決めた瞬間、営業は変わる。
社員が迷わなくなる。

「うちは安くしない方針です」と言える自信が生まれる。
それが会社全体の空気を変える。
取引先の見る目も変わる。
値段交渉が減り、内容の相談が増える。
営業の時間が建設的になり、仕事が楽しくなる。

経営に必要なのは、値引きではなく判断力だ。
安売りの誘惑を断つ決断をした社長だけが、長く利益を残せる。

短期的な数字を追うのは誰でもできる。
長期的な信頼を積むのは、覚悟がある人だけにできる。

値引きをやめた瞬間から、会社は変わりはじめる。
営業が変わり、社員が変わり、取引先との関係が変わる。
安さを武器にしていた会社が、信頼を武器に変える。
その変化が、未来の安定につながる。

値引きは一見やさしい選択に見えて、実は最も難しい道を遠ざける行為だ。
安くすれば売れると思うのは錯覚だ。

本当に売れる会社は、理由を語れる会社だ。
その理由こそが、販路開拓の最大の力になる。

安くする勇気より、安くしない覚悟。
売上を増やす力より、信頼を積む力。
この二つを持った会社だけが、時代の波に負けない。

値引きをやめた瞬間に会社が変わる。
その判断ができる社長こそ、本当に強い社長である。

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