取引先に本音を話すな 信頼される社長は「言わないこと」を知っている


「取引先とは腹を割って話したい」「正直な気持ちを伝えたほうが信頼される」
そう考える社長は多いと思います。営業の現場でも、「うちは隠しごとはしない」「オープンな関係でいきたい」と
語る人は少なくありません。
けれど、社長同士やバイヤーとの関係において、本音をそのまま口にすることが必ずしも良い結果を生むとは限りません。

特に食品業界の商談では、距離の取り方がとても重要です。
たとえば、展示会や試食会のあとに「一緒に食事でも」と誘われることがあります。

その場で気が緩み、つい会社の利益率や他社の動向、今後の販売計画まで話してしまうことがあります。
その瞬間、相手はあなたの「情報源」としての見方に変わります。
どれだけ親しくしても、ビジネスの関係では情報の取り扱いに境界を設ける必要があります。

信頼関係があるから何を言ってもよい、という考え方は危険です。
むしろ、信頼関係があるからこそ「言ってはいけないこと」を守る姿勢が大切です。

バイヤーや取引先は、どんなに親しくなっても、自社の利益を第一に考えています。
あなたの会社も同じです。1円でも高く売りたい。一方で、相手は1円でも安く仕入れたい。
この立場の違いが、商談の本質です。どんなに仲良くなっても、完全な中立にはなりません。

たとえば、原価や利益率、仕入れルートの詳細などは口にすべきではありません。
「この商品は原価が高くて利益が出にくい」といった一言が、相手の判断材料になります。

そこから「ではもう少し安くできるのでは?」と交渉が始まり、取引のバランスが崩れます。
価格だけでなく、今後の取引条件や納期、数量などにも影響するため、一度出た情報は取り戻せません。

営業では「誠実さ」と「情報の線引き」を同時に持つことが求められます。
本音を話すこと=誠実ではありません。
誠実とは、約束を守り、相手に迷惑をかけないこと。必要な情報を正確に伝え、余計なことを言わないことです。
それが結果的に「信用される人」になります。

食品会社の社長が陥りやすいのは、「取引先に合わせすぎること」です。
たとえば、宴席の席でバイヤーが自社製品の課題を指摘してきたとき、
つい「実はあの製造ラインは古くて…」などと説明してしまう。

その場では共感を得られたように見えても、後日その発言が別の部署に伝わり、信用を落とすことがあります。
本音を言ったつもりが、結果的に信頼を損なう。そんなケースは多いのです。

一方で、話してよい本音もあります。
それは「商品をもっと良くしたい」という前向きな本音です。
自社の弱点を改善する姿勢や、現場を良くしようとする考えは、バイヤーからも評価されます。

たとえば、「まだ改善途中ですが、地元原料を増やして品質を上げたい」
「次回ロットで塩分を控えめに調整します」といった発言は前向きです。
このような本音は信頼を築く方向に働きます。

つまり、社長が話すべき本音と、言ってはいけない本音は違います。
経営の数字や内部事情、他社情報は口にしない。

一方で、改善への意欲やお客様への思い、地域へのこだわりは伝える。
この線引きを明確に持つことで、取引先からの評価が安定します。

また、相手の会社に対して意見するような発言も避けたほうがよいです。
「御社の営業はもっとこうすればいい」「御社の商品は古い」など、
意見のつもりでも批判と受け取られます。

社内の人間関係や組織事情は複雑です。
相手の会社については「学ばせていただいています」「勉強になります」と伝える程度がちょうど良い距離感です。
信頼関係を保つには、意見よりも敬意の言葉を多く使うことが大切です。

営業担当者や社長が評価されるのは、「余計なことを言わない人」です。
言葉を選び、口数が少なくても、約束を守る人のほうが信頼されます。

実際、成功している食品会社の社長は、あまり多くを語りません。
静かに話し、相手の言葉をよく聞き、必要なことだけを伝えます。
この姿勢が「誠実な人だ」と評価され、自然と良い関係を築いています。

ここで、よくある失敗例を一つ紹介します。

ある調味料メーカーの社長が、取引先の営業担当に「うちは原価が高くて利益が薄い」と冗談交じりに話しました。
その数日後、その言葉が仕入れ会議で引用され、単価引き下げの理由として使われてしまいました。

本人は軽い会話のつもりでも、相手にとっては交渉材料になるのです。
営業の世界では、言葉が記録として残ることを常に意識しておく必要があります。

沈黙は、営業の強さの一部です。

何かを聞かれても、すぐに答えない。少し間を置くだけで、落ち着きと信頼を生みます。
その一瞬の沈黙が、「この人は慎重だ」「信頼できる」と相手に印象づけます。
言葉の多さではなく、沈黙の深さが社長の品格をつくるのです。

社長としての理想は、相手が「この人は何を話しても外に漏らさない」と感じる存在になることです。
一度その信頼を得れば、商談もスムーズになります。
言葉で取り繕うより、黙って行動で示すほうが相手の心に残ります。

営業の世界では、「言う勇気」よりも「言わない勇気」が試されます。
情報を守り、信頼を守る。
その積み重ねが、長く続く取引を生み、会社の安定を支えます。

本音をすべて語るのは、正直ではなく、無防備です。
伝えるべき本音だけを見極めること。
それが、信頼される社長の条件です。


顧問契約・セミナー・取材のご相談
食品会社の販路開拓支援、講演・研修のご依頼、マスコミ取材のご相談
ご相談・お問い合わせフォーム

食品会社の社長向けPDF教材の販売
販路開拓成功シリーズを販売中 オンライン無料相談30分付き
教材購入はこちら(STORES)