食品会社を経営していると、顧客から「ありがとう」という言葉をいただく場面が少なからずあります。
バイヤーからの感謝の言葉は、経営者として大きな励みになるでしょう。社長自身が直接言われる場合もあれば、
担当者や社員を通して耳に入ることもあります。
ただし、その感謝の言葉が自社にとってどのような意味を持つのかを見極めることが大切です。
顧客からの感謝は必ずしも「会社の成長」や「利益確保」と同義ではありません。経営者は一歩引いた視点で、
その背景を理解しなければなりません。(感謝されることは大切ですからね)
顧客が感謝する二つの理由
顧客が食品会社や担当者に感謝を伝える理由は、大きく分けて二つです。
1. 本質的な価値を提供している場合
- 商品の導入によって売上が伸びた
- 物流や納品の仕組みが改善され効率化につながった
- 原価削減や経費削減に貢献できた
- 誠実な対応で安心して取引できる
こうしたケースでは、顧客のビジネスに直接的な効果があり、その成果が「ありがとう」という言葉に表れます。
これはまさに理想的な感謝であり、長期的な信頼関係の基盤となります。
2. 無理な要望を聞き入れた場合
- 値引きに応じた
- 急な呼び出しや納期変更に対応した
- 通常では引き受けない条件を許容した
この場合も感謝の言葉をもらうかもしれませんが、実態としては「取引先の都合に合わせた」結果であり、
自社の利益が圧迫される危険性があります。長期的に見ると、感謝どころか依存関係を生むことになりかねません。
感謝の言葉に隠れたリスクを見抜く
食品会社の社長にとって、最も重要なのは「感謝の中身」を見極めることです。
社員が「バイヤーに感謝されました」と報告してきたとき、その背景を分析せずに評価するのは危険です。
感謝の理由が本質的な価値提供によるものであれば大歓迎です。
安易な値引きや突発的な依頼対応が理由なら、社長は厳しくチェックしなければなりません。
感謝の言葉は一見プラスのように見えても、実際には赤字案件やリスクの温床になっていることがあります。
「ありがとう」と言われても利益がなければ、会社の経営に貢献したとはいえません。
感謝される営業活動と利益確保の両立
食品会社の経営においては、顧客満足と利益確保を両立させることが不可欠です。
そのために社長が意識すべきポイントは以下の通りです。
- 基準を明確にする
値引きや特別対応について、自社として許容できるラインを定める。社員が判断に迷わないように
ルール化することが重要です。 - 感謝の理由をヒアリングする
「なぜ感謝していただけたのか」を社員に報告させ、経営判断に活かす。成果なのか便宜なのかを区別します。 - 数字で検証する
感謝の言葉と利益の数字を照らし合わせ、どちらも伴っているかを確認する。
言葉だけに惑わされない姿勢が必要です。 - 顧客教育を行う
無理な要求が常態化しないよう、社長自ら顧客に説明し、適正な条件での取引を浸透させる。 - 長期的視点を持つ
一時的な感謝や取引量にとらわれず、5年・10年続く関係を前提に顧客を評価する。
食品業界特有の「感謝」の構造
食品会社では、一般的なBtoB取引とは異なる特徴があります。特に百貨店やスーパーとの取引では、
短期イベントや催事が多く、協賛依頼や販促費の負担を求められることが過去にはありました。(いまはないはず)
そのたびに柔軟に対応すれば「助かりました、ありがとうございます」と言われるかもしれません。
協賛や値引きが積み重なれば利益を大きく圧迫します。
感謝の言葉に隠れて見落としがちなのが「販促コストが誰の負担になっているか」という点です。
社長はそこを正しく把握し、利益を守る判断を下さなければなりません。
社長が感謝の言葉を正しく活用する方法
顧客からの感謝は経営のヒントにもなります。大切なのは「表面的に喜ぶ」のではなく
「戦略的に解釈する」ことです。
- 社員教育の指標にする
誠実な対応や成果が評価された事例は、全社で共有し、営業スタイルの標準化につなげる。 - 商品改善の材料にする
顧客からの感謝の声が具体的であれば、それは市場が求めている価値の証拠です。開発や改善に活かせます。 - 取引関係の見直しに使う
無理な要求への対応で感謝された事例は、むしろ改善対象として扱い、条件交渉の契機にする。
まとめ:感謝の言葉を鵜呑みにせず、経営判断に活かす
食品会社の社長にとって、顧客からの感謝の言葉は大きな励みになります。
ただし、その言葉が自社にとって真の価値を示すのか、それとも負担を意味しているのかを見極めることが必要です。
- 感謝には「成果に基づく感謝」と「便宜に対する感謝」がある
- 利益を伴わない感謝は、会社にとってマイナスになりかねない
- 社長は感謝の理由を分析し、利益と結びつけて判断することが重要
- 感謝を経営戦略に活かすことで、販路開拓と安定経営につながる
顧客に感謝されること自体はすばらしいことです。ただし「感謝=成功」とは限りません。
社長がその意味を正しく理解し、利益を守りながら感謝される仕組みをつくることこそが、
食品会社の未来を切り開く経営の鍵となります。
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