群馬県にある小さな鶏卵会社が、鳥インフルエンザという度重なる困難を乗り越え、地域密着型から全国の高級スーパーへ販路を広げた、心温まる物語をご紹介します。この会社が大きく変わるきっかけは、いったい何だったのでしょうか。
地域での信頼と鳥インフルエンザの脅威
この鶏卵会社は、地元群馬県でずっと、JAやスーパー、飲食店、道の駅などと仲良くお付き合いしていました。長年大切に育ててきた品質と信頼で、地域のみなさんに愛され続けていたのです。でも、数年おきにやってくる鳥インフルエンザは、経営に重い影を落としていました。
出荷が止まったり、風評被害に苦しんだり、たくさんの鶏たちを失ったりと、そのたびに会社の未来が危うくなるような状況に直面していました。社長は、このままではいけないと、会社のこれからを真剣に考え始めました。
この困難を乗り越えるには、今までとは違う一歩を踏み出すしかない。そう強く感じた社長は、現状を変えるためのヒントを探し始めたのです。地域での信頼はとても大切な宝物でしたが、同時にそれは、地域という枠を越えられないという壁でもありました。一つの場所に頼るリスクを減らし、もっと安心できる経営の土台を築くこと。それが社長の大きな願いでした。
「当たり前」への気づきと差別化
「うちの卵は、他の卵とは少し違うんだ」。社長はなんとなくそう感じていましたが、具体的に何が特別なのか、うまく言葉にできませんでした。
そこで私は、社長とじっくりお話しして、会社の隠れた魅力を見つけるお手伝いをしました。お話を聞いているうちに、社長にとっては当たり前だったことが、実はすごく特別な「こだわり」だとわかってきたのです。
1. 徹底した平飼いへのこだわり
鶏舎はとっても広々としていて、鶏たちは自由に歩き回っていました。カゴに閉じ込めるのではなく、のびのびと過ごせる「平飼い」という育て方が、ストレスを減らし、健康で美味しい卵を産むための大切なポイントでした。
鶏たちが土を掘ったり、砂浴びをしたりと、本来の姿でいられることが、卵の品質をぐっと引き上げていたのです。
2. 自家配合飼料へのこだわり
卵の味を左右するごはんにも、特別な工夫がありました。地元の農家さんと協力して仕入れた新鮮な穀物を使い、独自のレシピでブレンドしていました。
例えば、遺伝子組み換えをしていないトウモロコシや、魚粉、海藻などをバランス良く混ぜることで、黄身の色が濃く、味が豊かで、生臭さのない卵が生まれていたのです。この飼料に対する情熱こそが、他にはない美味しさの秘密でした。
3. 鮮度へのこだわり
卵を産んですぐにパックに詰めて、新鮮な状態でお届けするという、徹底した鮮度管理も強みでした。普通は、卵がお店に並ぶまでに何日かかかってしまいますが、この会社では独自の工夫で、一番新鮮な状態を保っていたのです。
この鮮度の良さが、卵が本来持っている美味しさを最大限に引き出していました。
これらの「当たり前」を丁寧に整理して、「こだわりの卵」という素敵なコンセプトを作り上げました。ただ「美味しい卵」と言うだけでなく、なぜ美味しいのかという理由を、ちゃんと伝えられるようになったのです。
ターゲット変更と新たな販路
自社の魅力がはっきり見えたことで、私たちは次のステップとして、新しいお客様との出会いを探し始めました。今までのような地域のお客様だけでなく、「もっと良いものを探しているお客様」に目を向けたのです。具体的には、「食の安心や品質をとても大切にする高級スーパーマーケット」に声をかけてみることにしました。
なぜなら、高級スーパーは商品の背景にある物語や、生産者さんの思いをとても大切にしてくれるからです。値段の安さを競うのではなく、商品の本当の価値をきちんと評価してくれる場所だからです。そして、こういうお店に来るお客様は、商品の裏側にある物語や、作った人の顔が見えることを求めているからです。
高級スーパーへの提案と採用
心を込めて作った「こだわりの卵」の資料を手に、高級スーパーへご提案に伺いました。資料には、広々とした鶏舎の写真や、特別なごはんの秘密、そして社長の卵への熱い思いを、詳しくまとめました。最初は「少しお値段が高いですね」と心配するバイヤーさんもいましたが、実際に卵を試食してもらうと、「味が濃い!」「黄身がプリッとしている!」「今まで食べた卵とは全然違う!」と、その品質を心から褒めてくれました。
バイヤーさんは、ただ美味しいだけでなく、その卵がどんな風に作られているかという物語に、深く感動してくれました。そしてついに、高級スーパーでの取り扱いが決まったのです。この成功は、商品の美味しさだけでなく、その背景にある「こだわり」を温かく伝えられたからこその結果でした。
成功の鍵
この鶏卵会社の成功は、次の3つの大切なポイントにまとめることができます。
1. 強みの再発見
自分たちの「当たり前」をもう一度見つめ直して、他にはない素敵な魅力を言葉にすることです。当たり前だと思っていることの中にこそ、特別なヒントが隠れています。
2. ターゲットの再設定
商品の価値を本当に理解して、大切にしてくれるお客様を見つけることです。みんなに買ってもらおうとすると、かえって誰にも届かないことがありますからね。
3. ストーリーを伝える
こだわりや情熱といった物語を、お客様に優しく伝えることです。商品の背景にある物語は、お客様の心をそっと動かす、とても素敵な力になります。
このお話は、どんな食品会社さんにもきっと通じることではないでしょうか。自分たちの良いところを見つけて、それを必要としてくれるお客様に届けることで、新しい道は大きく開けます。価格競争から一歩抜け出して、安心できる経営を続けていくために、自分たちの「こだわり」を、もう一度見つめ直してみませんか。
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