食品の販路開拓専門家・伊藤晴敏です。
社長業をしていると、腹の立つ場面はいくらでもある。
こちらが誠意をもって提案しても、返事がない。
納期を守ったのに、発注が減る。
誤解されたまま話が進む。
心のどこかで「ふざけるな」と叫びたくなることもある。
人間だから、怒りは出て当然だ。
だが、その感情をコントロールできるかどうかで、会社の命運が変わる。
一時の怒りに流された社長ほど、長期では損をする。
取引は信頼の積み重ねで成り立っている。
怒りをぶつけた瞬間、何年もかけて築いた信用が一気に消える
ある地方の食品会社の社長は、地域の素材を活かした優れた商品を作っていた。
バイヤーの評価も高く、百貨店や高級スーパーとの取引も順調だった。
社員も誇りをもって働いていた。
そんな中、ある催事の打ち合わせでトラブルが起きた。
納期をめぐってバイヤーと意見が食い違った。
バイヤーは「急ぎで頼みたい」と言い、社長は「それは無理だ」と返した。
その言葉が次第に強くなり、最後には怒鳴り声になった。
「うちは下請けじゃない」「そんな条件では商売にならない」
打ち合わせは途中で打ち切られた。
数日後、予定していた発注がキャンセルになった。
催事の案内も来なくなった。
取引先からは「ちょっと扱いづらい会社」と言われるようになった。
社員は何も言えず、社内の空気が重くなった。
商品は変わらず良かったのに、社長の感情が販路を閉ざした。
経営において「短気」は最大の敵だ。
怒りは一瞬で判断を狂わせ、冷静さを奪う。
怒った瞬間、相手の話を聞く耳がなくなり、視野が狭くなる。
それは“感情の暴走”であり、経営の舵を手放す行為でもある。
短気な社長には、共通したパターンがある。
少し売上が下がると、すぐにイライラする。
社員の小さなミスにも激怒する。
取引先の態度に反応して、不機嫌になる。
社内の空気はピリピリし、社員は萎縮する。
ミスを隠す人が増え、報告が遅れ、結果的にトラブルが増える。
バイヤーも「雰囲気の重い会社」と感じて距離を取る。
こんな態度は、経営に良い影響を与えない。
感情で動く会社は、外から見ても不安定に見える。
経営とは、常に周囲に「安心」を与える仕事だ。
社長が落ち着いていれば、社員も取引先も安心する。
逆に、社長が焦って怒っている会社は、どんなに数字を追っても続かない。
怒らない社長は強い。
感情を抑えられる人は、相手を見ている。
「なぜそうなったのか」を考える余裕がある。
取引先の立場、現場の事情、相手の社内の都合。
すべてを理解したうえで判断できる。
その冷静さが、信頼を生む。
怒りを抑えた社長は、懐が深く見える。
バイヤーも社員も安心して本音を話す。
社長が感情的になる会社では、誰も正直な意見を言わなくなる。
報告が遅れ、ミスが増え、社内の風通しが悪くなる。
やがて小さなトラブルが大きな損失につながる。
感情をコントロールできる社長は、どんな状況でも判断がぶれない。
売上が落ちても、社員が辞めても、取引先が無理を言っても、冷静に対処できる。
焦らず、怒らず、次の一手を考える。
この落ち着きが、経営の安定を支える。
昔から「ならぬ堪忍するが堪忍」と言われてきた。
許せないことを許すのが本当の忍耐だ。
堪忍は我慢ではなく、理解の力。
相手を責める前に「自分は何を学べるか」と考える姿勢が、経営の質を高める。
短気な社長は、すぐに結果を求める。
今日の売上、今月の数字、明日の利益。
その焦りが言葉に出る。
焦りが社員に伝わると、組織は不安定になる。
一方、落ち着いた社長は、結果を急がず、信頼を積み上げる。
短期より長期、数字より人間関係。
この視点がある人ほど、業績が安定して伸びていく。
感情を抑えるとは、何も我慢し続けることではない。
心の中で冷静に整理をつける力だ。
怒りを飲み込むのではなく、事実を見つめ直す。
「なぜ相手はそう言ったのか」「自分にも原因があるのか」
この一呼吸ができる人が、結果を出す。
営業や販路開拓の現場では、感情を抑えた人が最後に勝つ。
冷静な社長のもとには、チャンスが集まる。
取引先も社員も、落ち着いた人のまわりに安心を感じる。
安心が信頼になり、信頼が売上になる。
社長業とは、怒りを抑え、器を広げる仕事だ。
器が小さいと、相手を責めて終わる。
器が大きい人は、相手を許し、育て、信頼を残す。
経営の成果は、社長の器の大きさで決まる。
会社を強くするのは、戦略でもなく、商品でもなく、社長の心の余裕。
心が広い社長には、自然と人が集まり、販路も広がっていく。
————————————————————————
販路開拓の課題について
セミナー、取材など
→お気軽にお問い合わせください
食品会社の社長向けPDF教材の販売
→教材購入はこちら(STORES)
