食品の販路開拓専門家・伊藤晴敏です。
北関東の建設会社から相談を受けました。
従業員は約80名。
本業の建設業で地域を支えてきた、歴史のある会社です。
その会社が、新しい挑戦を始めました。
野菜の栽培です。
「これからの時代、食は外せない」
社長の強い決意で、最新の施設を建て、天候に左右されない環境で野菜を作り始めました。
現場を見せてもらうと、驚くほどきれいです。
徹底した管理。
さすが建設業で培った現場力だ、と感銘を受けました。
野菜そのものの品質も抜群です。
形が揃い、色が鮮やかで、何より一年中、決まった量を確実に収穫できる。
「これなら、どこに出しても恥ずかしくない」
社長も胸を張っていました。
現実は甘くありませんでした。
作れば作るほど、売上は伸びず、赤字が膨らんでいきました。
良いものがなぜ売れないのか
社長の悩みは深いものでした。
「伊藤さん、うちの野菜は悪くないはずだ。手応えがないんだ」
夜、事務所の明かりの下で、社長はため息をつきました。
当時の主な出し先は、地元のJAと近隣のスーパーでした。
地元の市場やスーパーに並ぶと、この会社の野菜は「高い商品」になってしまいます。
施設栽培は電気代や設備維持費がかかります。
お日様の下で育てる露地栽培の野菜と、価格だけで競えば、負けてしまうのです。
スーパーの買い出しに来るお客さんは、10円、20円の差に敏感です。
隣に安くて立派な地元の露地野菜があれば、そちらを手に取ります。
「品質がいいのはわかるけど、ちょっと高いよね」
バイヤーからもそう言われ続けました。
せっかくの安定供給という強みも、スーパーでは活かされません。
「雨が降って他が足りない時だけ持ってきてよ」
そんな都合のいい扱いをされることもありました。
社長は、自分の商品に自信を失いかけていました。
「野菜事業そのものが間違いだったのか。撤退すべきか」
そんな言葉まで漏れるようになりました。
私は社長に言いました。
「社長、商品は悪くありません。間違っているのは、売る先です。
売れない会社の多くは、商品ではなく取引先を間違えています」
土俵を変える決断
この会社の野菜の強みは何でしょうか。
それは、徹底した「衛生管理」と、一年中欠かさない「安定供給」です。
この価値を、喉から手が出るほど欲しがっている場所が他にあります。
私は、売る先をガラリと変える提案をしました。
一般の消費者が買い物をするスーパーではなく、食品加工の現場。
具体的には、大手スーパーに並ぶお弁当やお総菜を作っている「総菜工場」です。
総菜工場の裏側を想像してみてください。
毎日、数万食のお弁当を作っています。
そこで一番怖いのは何でしょうか。
一つは、食中毒です。
だから、材料の衛生状態には極めて神経を使います。
土がついた野菜を洗う手間や、菌が混入するリスクを最小限に抑えたい。
もう一つは、欠品です。
「今日は雨で野菜が入荷しませんでした」では済まされません。
お弁当の枠が空いてしまったら、工場のラインが止まり、莫大な損害が出ます。
つまり、彼らにとっての「良い野菜」とは、単に安い野菜ではありません。
「安全で、明日も明後日も、決まった時間に決まった量が必ず届く野菜」なのです。
この会社の施設栽培野菜は、まさにその条件にぴったりでした。
現場で伝えた「正直な価格」
私たちは、ターゲットを絞って動き始めました。
ある大手チェーン向けの総菜工場に、話を繋ぎました。
商談の場。
私は社長に、一つだけアドバイスをしました。
「価格のハンデを隠さないでください。正直に伝えてください」
工場の仕入れ担当者の前で、社長は切り出しました。
「うちの野菜は、露地ものに比べたら高いです。安さでは勝負できません」
担当者は黙って聞いています。
社長は続けました。
「その代わり、うちは建設業のノウハウで衛生管理を徹底しています。
工場に入る前の洗浄の手間を減らせるはずです。
そして、どんなに台風が来ても、真冬でも、契約した量は1グラムも減らさずに届けます。
御社のラインを止めることは、絶対にありません」
この言葉が、担当者の心に刺さりました。
彼らは、安さを求めて仕入れ先を転々とし、そのたびに納品トラブルや品質のバラツキに頭を抱えていたのです。
「一度、テストさせてください」
重い扉が開いた瞬間でした。
価値が認められた瞬間
テスト納品が始まりました。
工場の現場からは、驚きの声が上がりました。
「野菜の大きさが揃っているから、機械でのカットがスムーズだ」
「洗浄工程での異物混入チェックが楽になった」
「何より、明日届くかどうか心配しなくていいのが助かる」
結果は、見事な受注でした。
価格はこれまでのスーパー向けよりも高い設定です。
それでも、工場側は「トータルコストで見れば、こちらの方が安い」と判断してくれたのです。
作業の手間が減り、管理のリスクが消える。
その価値が、価格の差を埋めたのです。
現在、この建設会社の野菜事業は、この総菜工場との取引が大きな柱になっています。
もう、スーパーの価格競争に巻き込まれて、ため息をつくことはありません。
むしろ、「もっと量を増やせないか」と相談されるまでになりました。
社長の顔には、かつての自信が戻っていました。
「伊藤さん、売る場所を変えるだけで、こんなに評価が変わるものなんだね」
事務所で報告を聞きながら、私は確かな手応えを感じていました。
商品が悪いのではない
食品ビジネスに携わる社長の多くは、商品が売れないと真っ先にこう考えます。
「自分の作ったものがダメなんだ」
「もっと美味しく、もっと安くしなければ」
もちろん、品質向上は大切です。
実際の現場を歩いていて私が強く感じるのは、商品そのものに問題があるケースは意外と少ないということです。
多くの場合、本当の原因は「売る先」にあります。
本来、ダイヤモンドを欲しがっている人のところへ行くべきなのに、
石ころを探している人のところへ持っていってしまっている。
高級な、手間暇かけた食材を、価格だけで選ぶ納入先に持っていけば、それは「ただの高い商品」です。
その手間暇が「安心」や「効率」に繋がる相手に持っていけば、それは「宝物」に変わります。
もし、社長が今、一生懸命作った商品が売れずに悩んでいるのなら。
自分を責める前に、今の取引先を見渡してみてください。
社長の商品の価値を、本当に理解してくれる人は誰か。
商品の「強み」が、相手の「悩み」を解決する場所はどこか。
売上が伸びない理由は、商品ではなく、取引先の選び方にあることも多い。
その視点を持つだけで、新しい道が見えてくるはずです。
夜、静かな時間に、一度考えてみてください。
御社のその商品は、本当にふさわしい場所で輝いていますか。
商品の価値を信じているのは、社長、御社自身です。
その価値を、同じように大切に思ってくれる納入先は、必ずどこかに存在します。
現場での小さな変化が、大きな成功に繋がる。
私はその瞬間を、これからも一歩ずつ、一緒に形にしていきたいと思っています。
次は、御社の番かもしれません。
一歩踏み出す準備はできていますか。
売上が前年割れした食品会社の社長が最初に確認すべき3つ
食品会社の資金繰り|売れているのに倒産する会社の現実と社長が最初に確認すべきこと
—————————————————————————
売上が伸びない。人がいない。
営業をどうすればいいのか、わからない。
一度、整理しませんか。
■個別相談・セミナー・取材のご相談
→ お問い合わせフォームへリンク
■まずは社長向け販路開拓PDFを読む
→ 社長向けPDFはこちら(STORESへ)
