食品の販路開拓専門家・伊藤晴敏です。
食品の商談で、多くの社長が勘違いしていることがあります。
それは「おいしいものを作れば売れる」「こだわりを語れば採用される」という思い込みです。
社長が寝る間も惜しんで、何度も試作を重ねて完成させた商品ですから、
その味や素材の良さを伝えたくなる気持ちは痛いほどわかります。
ただ、商談の席に座っているバイヤーの頭の中は、社長の情熱とは全く別の物差しで動いています。
厳しい言い方かもしれませんが、バイヤーはおいしい商品を探しているのではありません。
めずらしい商品や、物語のある商品を探しているのでもありません。
バイヤーが真剣に、必死に探しているのは、たった一つ。 「自社のお店で、確実に売れる商品」です。
どれほど味が絶品で、どれほど感動的な開発ストーリーがあっても、そのお店の売場に並んだときに売れないと判断されれば、
1分で商談は終わります。これが、教科書通りのマーケティング論とは違う、現場の生々しい商談の現実です。
良い商品が、なぜ「お断り」されるのか
商談でよくある光景をお話しします。 社長が「この原材料は希少で、製法にもこれだけ手間をかけました。
食べてみてください、本当においしいですから!」と熱弁を振るいます。
バイヤーも一口食べて「確かにいい味ですね」と言ってくれます。
ところが、その後の返答はこうです。 「でも、うちの店には合いません」
社長からすれば、おいしいと認めたのになぜ?と狐につままれたような気分になるでしょう。
中には「バイヤーに味を見る目がない」と言う社長もいます。
ここで見落としているのが、商談において最も重要な「提案先の店のコンセプトに合っているか」という視点です。
例えば、1円でも安く買い物をしたいお客様が集まるディスカウントスーパーに、
こだわり抜いた1,000円のドレッシングを提案しても採用されません。
逆に、富裕層が通う高級スーパーに、どこにでもある安価な大量生産品を持ち込んでも見向きもされません。
バイヤーは「自分の好み」で商品を選んでいるのではありません。
「店に来るお客様が、実際に財布を開くかどうか」というフィルターを通して商品を見ているのです。
バイヤーが商談で「本当に見ている」4つのポイント
では、実務レベルでバイヤーが何を基準に合否を出しているのか。具体的な4つの視点を挙げます。
1. 月にどれくらい動く(売れる)か
商談で最も重要な数字は「回転率」です。 お店のスペースは限られています。
1つ売れるのに1ヶ月かかる「最高にうまい商品」よりも、1日で10個売れる「そこそこの商品」の方が、
お店にとっては価値があります。 「この商品は、この価格帯なら週に何個動く見込みがあるのか」
この問いに、社長の言葉で、根拠を持って答えられるでしょうか。
2. 店の客層に合うか
そのお店に来ているのは、主婦ですか?独身の会社員ですか?それとも高齢の方ですか?
例えば、高齢者が多い店に、大容量のファミリーパックを持ち込んでも売れ残り、ロスになるだけです。
バイヤーは、お店でレジを通過するお客様の属性を熟知しています。そのお客様の生活シーンに、
その商品が入り込む余地があるかどうかをシビアに判断しています。
3. 価格が売場に合うか
「売場のプライスライン」という考え方があります。 そのお店の醤油コーナーの平均価格が300円なら、
そこに800円の醤油を置くのは至難の業です。
周囲の商品と比べて浮きすぎていないか、あるいは「少し贅沢をしたい日」の選択肢として許容範囲に収まっているか。
商品の原価から計算した「売りたい価格」ではなく、売場の相場から逆算した「売れる価格」になっているかが問われます。
4. 既存商品と競合しないか
これも非常に多い落とし穴です。 すでに売場に似たような商品があり、そちらの売れ行きが良い場合、
新しい商品は必要ありません。新商品を入れるということは、今ある商品を1つ削るということです。
「今置いているAという商品よりも、うちの商品の方が、店にとってこれだけのメリットがあります」
そう言い切れるだけの比較材料が必要になります。
「商品」を売るのではなく「売上の計画」を提案する
販路開拓の現場で私が常に感じているのは、商談は「味の品評会」ではないということです。
商談は、社長とバイヤーによる「共同の商売の打ち合わせ」です。
バイヤーが一番恐れているのは、採用した商品が売れ残って、売場の数字を下げることです。
バイヤーも目標を課せられています。だからこそ、失敗したくないのです。
その不安を解消してあげるのが、社長の仕事です。
「この商品は味が良い」と伝えるだけでは不十分です。 「この店のお客様なら、こういう動機で、この価格なら手に取ります。
実際に他店ではこれだけの数字が出ています」 ここまで踏み込んで初めて、バイヤーは「それなら一度試してみようか」と
検討を始めます。
こだわりやストーリーは、あくまで「売れる根拠」を補強するための材料に過ぎません。
メインディッシュは、あくまで「お店に利益をもたらす計画」であるべきです。
最後に:社長にしかできないこと
食品会社の社長は、誰よりも自社の商品を愛しています。それは素晴らしいことです。
その愛情を、少しだけ「相手(バイヤーとその先にいるお客様)の都合」に変換してみてください。
自分たちが作りたいものを作るのは「製造」ですが、それを相手に合わせて提案するのが「商売」です。
- その店の客層を、自分の足で確認しましたか?
- その売場の価格帯を、調べましたか?
- 既存の商品と何が違うのか、明確に説明できますか?
これらが整ったとき、商談の空気は変わります。 バイヤーは「わかってくれているな」と感じ、
社長を「一取引先の代表」としてではなく「商売のパートナー」として見るようになります。
きれいごとの理論はいりません。 まずは明日、ターゲットとするお店の売場をじっくり観察することから始めてください。
そこに、採用への答えがすべて転がっています。
次回の商談では、味の説明を半分にして、その分「どう売れるか」の話をしてみませんか。
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