募集しても応募はゼロ。だったら、いまいる従業員だけで会社を回すしかない

食品の販路開拓専門家・伊藤晴敏です。

「求人を出し続けているけれど、半年間、問い合わせの電話一本鳴らない」
「時給を100円上げたのに、誰も見向きもしてくれない」
「やっと入ったと思ったら、三日で来なくなった」

全国の食品会社を回っていると、社長からこういう話をよく聞かされます。
販路開拓の課題より多いかもしれません。
今の時代、地方の小さな食品会社に「新しい人が入ってくる」ことはないと考えたほうがいいです。
これが、いま私たちが直面している本当の姿です。

「いい人を採用して、教育して、組織を強くしましょう」
そんな経営コンサルタントの教科書みたいな言葉、何の役にも立ちません。
そもそも採用できないんですから。教育する相手がいないんですから。

新しい人を採用することをやめて、いまいるメンバーだけでどうにかして製造の持ち場を回し、
利益を出すための「地道なやり方」を書いていきます。

新しい人は来ない。まずはそこを認めましょう

まずはっきり申し上げます。社長、もう「誰かいい人が入ってくれば楽になる」という期待は、ゴミ箱に捨ててください。
今の日本、大企業でさえ人手不足で悲鳴を上げています。
そんな中で、知名度も低く、条件も決して良くない小さな食品会社に、優秀な若者がやってくるなんて奇跡は起きません。

「人が足りないから、仕事が受けられない」
「人が入ったら、この販路を攻めよう」
そう言っている間に、会社はどんどんジリ貧になります。
採用できないことを嘆いていても、売上は一円も増えません。

今のスタートラインは、「いまいる従業員だけで、どうやって今の仕事を回し、さらに利益を乗せていくか」です。
ここを腹に据えなければ、商売は続きません。

教育なんて言葉は忘れましょう

「うちの従業員はなかなか育たない」とこぼす社長が多いですが、教育なんて難しいことを考える必要はありません。
そもそも、今の忙しい製造の持ち場で、新人を手取り足取り教える余裕なんてどこにもないはずです。

朝から機械が回って、出荷のトラックが来る。
その合間に「背中を見て覚えろ」と言ったって、今の人は付いてきません。
というか、付いてこれるような器用な人は、もっと条件のいい会社に流れていきます。

だったら、どうするか。
「教えなくても、迷わずに動けるようにする」これだけです。

たとえば、煮炊きや袋詰めの作業中に「この材料はどっちの計量器で測るんだっけ?」と一瞬迷う。
その5秒、10秒の迷いが、一日の終わりには大きな時間のロスになります。

道具の置き場所をガムテープで囲う。
「赤のバケツは煮沸用」「青は洗浄用」と、誰が見ても1秒でわかるようにしておく。
そういう、小学生でも間違えないレベルの工夫を積み上げるんです。

従業員が「社長、これ、どうすればいいんですか?」と聞きに来る。
それは、従業員が仕事ができないのではなく、仕事の仕方が「聞かないとわからない構造」になっている証拠です。
社長が答える手間を減らす。それが、いまいる人数で回すための第一歩です。

社長、一度だけでいいから、作業している様子を黙って10分見てください
「仕事の流れは、わかっているよ」
そうおっしゃるかもしれませんが、本当に「一人ひとりの動き」を細かく見ていますか。

明日、10分だけでいいです。腕を組んで、黙って、従業員の動きをじーっと観察してください。
たぶん、イライラすると思います。
「なんであんな遠いところに道具を取りに行くんだ」
「あそこで二人が鉢合わせして、手が止まっているじゃないか」
「その報告書、書いてる間に次の仕込みができるだろう」

そういう「工夫するネタ」が、仕事の中には山ほど転がっています。
10人必要な仕事を、10人でヒイヒイ言いながらやっている。

でも、工具の配置を少し変えたり、余計な事務作業を削ったりするだけで、実は9人で回せるようになる。
その「浮いた1人分」の余裕が、新しい人を雇うよりも、よっぽど確実で、手っ取り早い利益になります。

社長が作業に入りすぎてはいけない

人手が足りないと、社長が自分で機械の前に立ったり、配送トラックを転がしたりしがちです。
社長が一番動けるし、一番詳しいですから、自分が動くのが一番早い。その気持ちは痛いほどわかります。

でも、社長が作業員になってしまったら、会社は厳しくなります。
社長が手を動かしている間、会社全体の流れを見て、滞っているところを解消する人がいなくなります。

「いまいる人でやるしかない」からこそ、社長は作業の「詰まり」を取る役に徹してください。
従業員が「あ、次は何をすればいいんだっけ」と手が止まる瞬間を見逃さず、先回りして段取りを整える。
社長が汗をかくのは、重い荷物を持つときではなく、従業員がノンストップで動ける環境を作るときです。

「募集しても来ない」会社の共通点

少し耳の痛い話をします。
求人を出しても応募がないのは、給与のせいだけではありません。
地域の噂というのは、社長が思っている以上に早いです。

「あそこの工場、いつも怒鳴り声が聞こえるよ」
「みんな疲れ切った顔をして帰っていくよ」
そういう空気感は、近所に丸見えです。

もし、いまいる従業員が、毎日ドロドロに疲れ、余裕のない顔で働いていたら、誰が「ここで働きたい」と思うでしょうか。
仮に、何も知らない人が入ってきたとしても、その空気を感じた瞬間に「あ、ここは長く居る場所じゃないな」と見抜かれます。

だからこそ、まずは今のメンバーが、少しでも楽に、迷わずに、無駄なく動けるようにしてあげるんです。
「今日はいつもより早く片付いたね」
そういう日が週に一回でも増えてくれば、会社の空気は変わります。
その「ちょっとした余裕」が、実は一番の求人広告になるんです。

近所の奥さんが「あそこ、最近なんだか雰囲気が良さそうね。ちょっとパートに行ってみようかしら」
そう思ってもらえるかどうか。
ネットの求人サイトに高い金を払うより、よっぽど現実的な採用戦略です。

売上を追う前に、いまの足元を固める

社長はよく「売上を倍にしたい」「もっと販路を広げたい」とおっしゃいます。
その意気込みは素晴らしいですが、今の人数で、今のバタバタのまま売上だけが増えたら、従業員はどうなりますか。

間違いなく、崩壊します。
ミスが増え、クレームが入り、愛想を尽かしたベテラン従業員が辞めていく。
残ったのは、さばききれない注文と、ボロボロになった社長だけ。
そんな光景を、私は何度も見てきました。

販路を開拓するのは、今の人数で、今の仕事が「余裕を持って」回せるようになってからです。
「いまいるメンバーで、しっかり利益が出る形」ができていないうちに、外に色目を使っても、ろくなことになりません。

まずは、目の前の従業員の動きを見てください。
彼らが何に困っているか。どこで手が止まっているか。
それを一つずつ、泥臭く、地道に潰していく。
新しい人を夢見るのは、それをやってからでも遅くありません。

商売のタネは、いまの仕事のやり方の中に隠れています。
「うちには人がいないからできない」と諦める前に、いまいるメンバーの力を100%活かす工夫を始めてみませんか。
派手な戦略なんていりません。
明日、仕事の様子を10分見る。そこからすべてが始まります。

いまいる従業員と売っている場所を繋ぎ直す
さて、製造の話だけではありません。販路開拓、つまり「売る」という仕事も、いまいるメンバーでやるしかありません。

「営業担当がいないから、新規の売場が作れない」
これもよく聞く言葉です。
でも、本当に営業マンがいなければ売れないのでしょうか。

たとえば、いま配送を担当している従業員。彼らは毎日、納品先のバイヤーや担当者と顔を合わせています。
彼らに「営業してこい」と言っても無理ですが、「売場の様子をスマホで一枚撮ってきてくれ」ならできるはずです。

「あそこの商品の並び方、うちのが端っこに追いやられていたよ」
「競合のあいつ、最近新商品を出したみたいだ」
そういう、実際に足を運んでいる人間にしかわからない情報。
これこそが、次の販路を開拓するための最強の武器になります。

新しい営業マンを雇う何百万円ものコストをかける前に、いま外を回っている従業員を、会社の「目」にする。
戻ってきた彼らに「お疲れさま。向こうの様子、どうだった?」と一声かける。
それだけで、会社の中に生きた情報が入ってくるようになります。

従業員を使い捨てにしない

小さな食品メーカーの強みは、小回りが利くことです。
そしてその小回りを支えているのは、長年一緒にやってきた従業員たちです。
彼らを「人手」というパーツとして見るのではなく、一緒にこの苦境を乗り越える「相棒」として見直してみてください。

「うちは採用できないから、今いる連中をこき使うしかない」
もし社長が心のどこかでそう思っていたら、それは必ず言葉の端々や態度に出ます。
それでは従業員はついてきません。

「新しい人は来ない。だから、お前たちに頼るしかないんだ」
そう正直に伝えて、彼らが少しでも楽に、安全に、誇りを持って働けるように、社長が知恵を絞る。
「この会社、俺たちがいないと回らないんだな」
従業員がそう自覚したとき、会社の底力は想像を超えるものになります。

販路開拓の専門家として、私は数多くの成功事例を見てきました。
そのほとんどが、最新のマーケティング手法を導入した会社ではなく、社長と従業員ががっちり手を組んで、
足元の無駄を一つずつ削ぎ落としていった会社です。

派手なことは何一つありません。
でも、その積み重ねだけが、今の時代に生き残るための、唯一の、そして最強の戦略になります。

社長、焦る必要はありません。
まずは明日、一番身近な従業員の顔を見て、彼らの動きを10分間、じっと眺めることから始めてください。
新しい人を採用しようと躍起になるより、ずっと価値のある時間になるはずです。

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