食品会社の販路開拓で失敗する社長の共通点「食わず嫌い」


食品業界は今、原材料費の高騰や人手不足、国内市場の縮小など、多くの課題に直面しています。
こうした厳しい環境のなかで、多くの地方・中小食品メーカーの社長が「とにかく新しい販路を開拓しなければならない」と
日々動いています。

一方で、行政、商工会、金融機関、あるいは民間のマッチングプラットフォームなどから新しいビジネスの引き合いを
紹介された際、最初から「この話はうちには合わない」と切り捨ててしまう社長も少なくありません。

結論から申し上げますと、売上に伸び悩む食品会社の社長ほど、中身を深く確かめる前に「食わず嫌い」をして文句を
言ってしまい、自らチャンスを逃している傾向があります。

新しい販路を開拓し、持続的に成長している食品メーカーの社長は、提案の捉え方が全く異なります。
本記事では、なぜ話を聞く前から文句を言って断ってしまうことが危険なのか、そして売れる社長が実践している
ビジネスチャンスの見極め方について、詳しく解説します。

紹介された案件を食わず嫌いする社長の特徴

支援機関や営業担当者が新しい引き合いを持ってきたとき、話の途中で「それは無理だ」と言って、
否定的な意見ばかり並べてしまう社長には、共通する特徴があります。
それは、ビジネスそのものを正しく評価する前に、すべて「自分の過去の価値観や思い込み」という狭い物差しで
判断してしまっている点です。

具体的な理由を確認する前に、以下のような言葉を口にしていないでしょうか。

  • 「そんな小さな数量では、製造ラインを動かすコストに見合わない」
  • 「納品先が遠すぎて、物流費で利益が吹き飛んでしまう」
  • 「うちは高級路線だから、そのような量販店やディスカウントに近いルートには出せない」
  • 「提示された卸価格では、うちの利益が全く出ない」

このように、話の詳細を聞く前から「数量が少ない」「遠い」「利益が薄い」「うちの商品には合わない」という文句を
言って、門前払いをしてしまうケースが非常に多く見られます。

もちろん、社長として採算性やブランドイメージを考慮することは当然の義務です。
問題なのは、「具体的な条件の交渉や、相手の真の狙いを聞く前に、自分の価値観だけでバッサリと切り捨て、
文句を言って終わらせている」という事実です。

現場でよくある「食わず嫌い」の失敗ケース

これまで数多くの食品メーカーの現場に足を運び、販路開拓のサポートを行ってきました。
その中で、話を聞く前に文句を言って断ってしまい、後になって「あの時やっておけばよかった」と
深く後悔した社長の姿を何度も見てきました。

以下にご紹介するのは、私が現場で実際に目にしてきた複数の事例をもとに、よくある典型的な失敗パターンを
分かりやすくまとめたものです。

ケース1:数量の少なさに文句を言い、将来の大口顧客を失った事例

ある調味料メーカーの社長は、地元の地方銀行から「都内で数店舗を展開する高級惣菜店が、新しいタレを探している」と
いう紹介を受けました。提示された最初の発注予測は「月に50本」という極めて少ない数量でした。

社長は「わざわざ見積書を作ってサンプルを送っても、月50本では手間賃にもならない。
そんな小さな商談を持ってこられても困る」と、文句を言って詳しい会話を行う前に断ってしまいました。

その後、その惣菜店は店舗数を大きく伸ばし、取引量も拡大しました。
この引き合いを先入観なく引き受けた同業の他社は、当初こそ少ない数量で苦労したものの、
惣菜店の拡大に伴って製造ラインがフル稼働するほどの大口取引へと発展しました。
社長は、将来の巨大な販路を、最初の数字と自分の価値観だけで見限ってしまったのです。

ケース2:遠方であることに文句を言い、物流の可能性を捨てた事例

地方でレトルト食品を製造する会社の社長は、関東のバイヤーから展示会を通じて商談の打診を受けました。
社長は「うちの工場から関東へ送るには、運賃が高すぎて利益が出ない。遠方の取引なんて最初からやれるわけが
ないだろう」と、提案書を見ることもなく文句を言って辞退しました。

一方、同じ地域で同じように遠方への出荷を課題としていた別の食品メーカーは、否定する前にまずバイヤーの話を
聞きました。するとバイヤーから「実は近くの共同配送センターまで持ってきてもらえれば、
そこからのセンターフィーは調整できる」「他社の商品と一緒にまとめて便に乗せるルートがある」という提案を
引き出すことに成功しました。

文句ばかり言う社長は、物流費という表面的なハードルだけで、バイヤーが持っていた解決策やノウハウを聞き出す機会を
自ら潰してしまったのです。

なぜ、最初は小さな商談でも「化ける」のか

食品業界におけるバイヤーとの商談や紹介は、最初から完璧な条件で提示されることは滅多にありません。
特に最初の時点では、バイヤー側も「この食品メーカーは信頼できるか」「こちらの要望に柔軟に対応してくれるか」を
テストしている段階であることが多いからです。

最初は文句を言いたくなるような小さな提案であっても、それが将来的に大口取引へと発展する理由は3つあります。

1. テスト販売から定番採用への昇格

バイヤーは、リスクを抑えるために最初は少量のテスト販売からスタートします。そこでエンドユーザーの反応が
良ければ、取扱店舗数が一気に増えたり、定番商品として年間を通じた大口発注に切り替わったりします。
入り口の段階で「これだけか」と文句を言って判断すると、その先にある本番のビジネスに辿り着くことはできません。

2. 別ルートやOEM案件への波及

ひとつの取引でバイヤーとの信頼関係ができると、「実は、来期から始めるプライベートブランド(PB)の商品開発を
お願いできる製造元を探している」「別の系列店舗でも御社の商品を扱いたい」といった、
当初の相談とは全く異なる大きなビジネスチャンスが舞い込んでくることがよくあります。

3. バイヤーの横のつながり

食品業界のバイヤーや紹介機関の担当者は、横のつながりを強く持っています。「あそこの社長は、
小さな相談でも先入観を持たずに親身になってくれる」「難しい条件でも、一緒に解決策を考えてくれる」という評判が
立てば、他の有力なバイヤーを紹介してもらえる確率が格段に高まります。

金融機関や支援機関からの紹介が持つ「見えない価値」

中小食品メーカーにとって、行政、商工会、金融機関、公的支援機関から持ち込まれるお話は、
単に「商品がいくら売れるか」という目先の売上以上の価値を秘めています。

こうした支援機関からの紹介には、以下のようなメリットがあります。

  • 一定の信用確認が行われている場合が多い 事前に相手企業の間に入っているため、全く素性の分からない相手と
    取引を始めるよりは、事前の情報収集や信用面での安心感があります。
  • 今後の優先的な情報提供につながる 持ち込まれた提案に対して、最初から否定せずに真摯に受け止める姿勢を
    見せることで、担当者との間に「信頼関係」が生まれます。すると、次回さらに条件の良い「非公開の優良案件」が
    優先的に回ってきやすくなります。
  • 地域社会での関係強化 地元の金融機関や商工会との結びつきが強くなり、将来的な補助金の申請や資金調達の相談、
    また別の経営課題の解決の際にも親身になってもらえるようになります。

売れない社長は、紹介された内容の「売上規模」しか見ず、すぐに不満を口にします。
売れる社長は、その話の背後にある「支援機関との関係強化」や「次のチャンスにつながる信用」まで
計算に入れて対応しています。

「売れる社長」と「売れない社長」の決定的な違い

販路開拓において成果を出し続ける社長と、足踏みを続ける社長の違いは、能力の差ではなく「案件に対する姿勢」の差です。

売れない社長は「最初に文句を言う」

概要を聞いた瞬間に、できない理由や不満を並べます。 「価格が合わない」「うちのコンセプトと違う」と
文句を言うことで、自分の現状のやり方を変えなくて済むため、無意識に変化を拒む言い訳を探してしまっているのです。

自分の価値観だけで瞬時に評価を終えてしまうため、相手の本当のニーズに気づくこともありません。
その結果、紹介してくれた担当者も「この社長に話を持って行っても、いつも文句ばかり言われて断られるから、
もう紹介するのはやめよう」と離れていってしまいます。

売れる社長は「まず話を聞く」

売れる社長は、どのような小さな相談や条件の厳しい内容であっても、決して最初から話を聞こうとしない姿勢は取りません。「まずは一度、バイヤーさんの詳しいお話を聞かせてください」と、フラットな姿勢で商談のテーブルにつきます。

そして、自分の価値観で決めつける前に、会話のなかで以下のような探索を行います。

  • 「なぜ、数ある食品会社のなかから、うちに声をかけてくれたのか?」
  • 「相手のバイヤーが、本当に困っている課題は何か?」
  • 「提示された条件のなかで、こちらから変更を提案できる余地はあるか?」

話を聞いた結果、どうしても条件が折り合わずに断ることになったとしても、それは全く問題ありません。
大切なのは、「十分な情報収集を行った上で、ビジネスとして適切に判断して断る」ということであり、
最初から食わず嫌いをして文句を言い、可能性をゼロにすることとは明確に異なります。

案件を見る目は、経験の数でしか養われない

社長から「こんな案件、やる意味ありますか?」と相談されることがあります。そうした場合に私が本当に気になるのは、
提示された内容の良し悪しではありません。中身をしっかりと聞きもしないうちに、その話を切り捨てようとしている
社長の姿勢です。ビジネスの価値は、最初の条件だけでは決して判断できません。

食品の販路開拓において、最初から「100%成功する優良な引き合い」を見極める魔法のような方程式は存在しません。
どの出会いが自社を大きく成長させるきっかけになるかは、実際にバイヤーと対話し、試行錯誤を繰り返すなかで
見えてくるものです。

提案の価値を見極める目(目利き力)は、数多くの商談を経験し、現場のバイヤーが求める生のニーズに
触れ続けることによってのみ養われます。

最初から文句を言って打席に立たない社長は、いつまで経っても見極める経験値が貯まりません。
どんなお話にも真摯に向き合う社長は、たとえその商談が成約しなかったとしても、「今の市場ではどのような価格帯が
求められているのか」「競合他社はどのような提案をしているのか」という、一級のマーケティング情報を
手に入れることができます。この経験の差が、数年後に圧倒的な開きを生むことになります。

まとめ:一つひとつの出会いを大切にする会社が勝つ

「うちの商品にぴったりの、最初から大量に買ってくれて、利益率も高く、近場ですべて完結する都合の良いバイヤー」に
出会える確率は、限りなくゼロに近いと言わざるを得ません。

誤解しないでいただきたいのは、すべての提案を無理に受けるべきだと言いたいわけではありません。
条件が合わなければ、当然断ることも大切です。その判断は、十分に相手の話を聞いてからでも決して遅くはありません。
食わず嫌いをやめるだけで、販路開拓の景色は大きく変わります。

私自身、食品会社の販路開拓支援を続ける中で、「最初は条件が厳しくて無理だ」と社長が難色を示していた案件が、
対話を重ねることでその後大きな取引へと発展した例を何度も見てきました。逆に、十分な情報収集をせず、
自分の価値観だけで文句を言って断ってしまい、後になって「あの時、ちゃんと話だけでも聞いておけばよかった」と
悔やむ社長の姿も少なくありません。

もし、御社に新しいビジネスの相談が届いているなら、それはたとえ条件が厳しく見えたとしても、
大きな飛躍への「入り口」かもしれません。

売れる食品会社は、お話を食わず嫌いせず、一つひとつの出会いを大切にしています。

まずは先入観を捨て、文句を言う前に相手の話をじっくりと聞くことから始めてみませんか。
その一歩が、御社の新しい定番商品や、大口の取引先との出会いにつながるはずです。


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