雑談ができない営業は損をする 食品会社の社長が今すぐ見直すべき「会話力」


食品会社の営業が苦戦しているとき、多くの社長が「うちの商品は悪くないのに」と口にする。
品質も味もよい。パッケージも改善した。価格も競合と同水準。
それでも、なぜか取引が進まない。
このような相談を受けるたびに、一つの共通点に気づく。
それは「会話」が少ないということだ。

営業の世界で成果を分けるのは、商品の優劣ではなく人間関係の深さ。
そして、その関係をつくる最初のきっかけが「雑談」である。
多くの社長は、雑談を「時間のムダ」と考えている。
けれど、雑談のない商談は冷たい水のようなもので、心を温めることができない。

バイヤーや担当者は、いつも多忙だ。
何十社もの商談を受け、価格や品質の話ばかりを聞いている。
そんな中で「人間らしい会話」をしてくれる相手に出会うと、ほっとする。
そこから商談が進むことが多い。
結局のところ、取引は「人」と「人」で決まる。

雑談の目的は笑いを取ることではない。
相手との間に安心感を生み出すことだ。
営業の話をする前に、相手の心をほぐす。
この準備を怠ると、せっかくの商品も届かない。

たとえば展示会で、ブースを訪れたバイヤーにいきなり説明を始める人が多い。
「こちらが弊社の新商品で、○○県産の~」というお決まりの流れだ。
ところが、バイヤーは前のブースでも同じような説明を聞いている。
その時点で「またか」と思ってしまう。
ここで少し雰囲気を変える一言を入れると印象が変わる。

「朝からたいへんお疲れさまです。」
「この会場、意外と寒いですね。」

たったこれだけで相手の表情が和らぐ。
会話の入口があるだけで、距離が近づく。
この効果は数字以上に大きい。

雑談が苦手な社長には共通点がある。
それは「完璧を見せよう」とする意識が強すぎることだ。
失敗を恐れ、隙を見せまいとする。
けれど、取引先が求めているのは完璧な説明ではなく安心できる人間味だ。

信頼は、完璧な商品説明よりも、素朴な一言で生まれる。
社長が「自分もこんな失敗をした」と話すと、相手は親近感を持つ。
失敗談には力がある。
それは、相手の緊張をゆるめ、自分の人間性を伝える力だ。

「展示会で試食サンプルを全部忘れたことがあるんです」
「初めて百貨店の担当者に会ったとき、緊張しすぎて名刺を逆さに出してしまって」

そんな話を聞いたバイヤーは笑いながら、「うちも似たようなことありますよ」と返してくる。
この瞬間、二人の間に小さな信頼が生まれる。
それが商談成功への第一歩だ。

食品業界はとくに「信頼の積み重ね」で取引が続く。
一度取引が始まれば長く続くが、信頼がなければどんなに安くしても買ってもらえない。
雑談は、信頼を生む最初の行為である。

雑談が上手い社長は、必ず相手の状況をよく観察している。
相手の服装、机の上の資料、名刺の肩書き、表情。
その一つひとつから話題を見つけ出す。
「最近、冷凍食品の展示が多いですね」
「この名刺、社名のロゴが新しくなりました?」
こうした何気ない一言が、会話を自然に始める。

一方、話題を考えすぎて硬くなる人も多い。
経済や政治の話を持ち出しても距離は縮まらない。
相手は安心して話したいのであって、討論したいわけではない。
雑談は「心を整える時間」と考えればいい。

では、どうすれば雑談が上手くなるのか。
答えはひとつ。練習することである。
経験を重ねることで、自然と会話の流れをつかめる。
最初はぎこちなくてもいい。
相手の反応を見ながら調整していけばいい。

まず社長が見本を見せると効果が高い。
朝礼やミーティングで社長が自分の失敗談を語る。
「若い頃、納品先に行く途中で商品を忘れたことがあってな」
「初めて商談に行ったとき、相手の名前をまちがえた」
社員は笑いながら聞く。
その笑いが職場を明るくし、営業にも自信が生まれる。

社長が自分をさらけ出すほど、社員は話しやすくなる。
上から「雑談しろ」と命じても、誰も動かない。
「社長が失敗を話してくれた」と感じた瞬間、営業マンは肩の力を抜く。
それが雑談力の第一歩だ。

商談の結果は、話のうまさではなく、空気のやわらかさで決まる。
緊張したままでは相手の本音を引き出せない。
世間話から始める商談は、表面上の取引ではなく、心の通った関係をつくる。
この関係こそ、長く続く取引の基盤である。

「うちの営業は話が苦手なんです」という社長は多いが、根本的な原因は環境づくりにある。
営業が話しやすい職場なら、自然と雑談も増える。
「今日、あのバイヤーといい話ができた」
「雑談から新しい取引のきっかけが生まれた」
こうした会話が社内に広がると、営業全体の雰囲気が変わる。

営業力とは、相手を動かす力ではなく、相手とつながる力だ。
そして、その力を磨く第一歩が雑談である。
雑談ができる営業は、数字にもつながる。
雑談を避ける営業は、信頼の芽を摘んでいる。
その差が、半年後の成果を大きく分ける。

今日からできる小さな一歩として、商談前の3分間を雑談に使ってみてほしい。
相手の出身地、季節の話、展示会の印象。
何でもいい。話す勇気が、信頼の扉を開く。
相手の笑顔が見えたら、それが成果だ。

営業を変えるのは、話術ではなく、誠実な会話。
食品会社の営業が今求められているのは、売り込みのうまさではなく、話しかける勇気だ。
今日の商談で、ひとつ自分の失敗談を話してみよう。
それが、次の注文を引き寄せるきっかけになる。

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