食品の販路開拓専門家・伊藤晴敏です。
地方の小さい食品会社の社長から、展示会の相談をよく受けます。一番多いのが「名刺はたくさん集まったのに、
その後が全く続かない」という悩みです。高い出展料を払って、準備も一生懸命やった。
それなのに売上につながらないのは、もったいないことです。社長の貴重な時間とお金を使っているのですから、
必ず結果に結びつけなければなりません。
展示会が終わってから、手元に残った名刺を見返してみてください。相手がどこの誰で、どんな話を喜んでいたか、
パッと思い出せますか。もし思い出せないなら、それは単なる「連絡先集め」で終わっています。
実は、連絡先を知っているだけでは、商売は一歩も前に進みません。名刺に書かれた電話番号やメールアドレスは、
あくまで文字に過ぎないからです。
展示会でバイヤーと名刺交換をしても、すぐに取引が決まることはまずありません。
ここを勘違いして「すぐに売れるはずだ」と期待しすぎると、かえってバイヤーに嫌がられてしまいます。
相手からすれば、展示会はあくまで「きっかけ」に過ぎないからです。
バイヤーは、その場ですぐに契約書に判を押すために来ているわけではありません。
自分の売場の利益をアップするための商品を探しに来ているだけなのです。
展示会場でのバイヤーの動きを想像してみてください。バイヤーは一日に百社ちかくブースを回ります。
朝から夕方まで、ひたすら歩き、ひたすら試食をし、ひたすら説明を聞いています。バイヤーによっては数日にわけて
来場してほとんどのブースをまわります。
その中で、御社の担当者と交わした挨拶や、商品の味を一つ一つ細かく覚えていることは不可能です。
会場を出た瞬間に、ほとんどの記憶は消えていると思ってください。これが、展示会です。
それなのに、展示会が終わってから「先日はありがとうございました。ぜひ一度お伺いさせてください」とだけ
連絡をしても、バイヤーの心には響きません。バイヤーは毎日、山のようなメールと実務に追われています。
内容の薄い挨拶メールは、読むのも返信するのも負担に感じてしまいます。
バイヤーが求めているのは、丁寧な挨拶ではなく、売場の利益をアップする具体的な提案です。
バイヤーが知りたいのは、商品の「こだわり」や「美味しさ」の裏側にある数字です。
いくらで仕入れて、いくらで売れば、自分の店の利益がいくら出るのか。
この計算が立たない限り、首を縦に振ることは絶対にありません。
社長がどれだけ「一生懸命作りました」と情熱を込めて語っても、バイヤーは頭の中で「一尺の売場にこれを置いたら、
一日何個売れるか」を計算しています。その計算が合わなければ、どんなに美味しい商品でも採用されません。
名刺交換をした時に、相手が自分の売場について何か困っていることを口にしませんでしたか。
「最近、この価格帯の商品が動かなくてね」とか、「もう少し小さいサイズがあれば助かるんだけど」といった一言です。
この一言こそが、商売を動かすきっかけになります。バイヤーの悩みを聞き出すことができて初めて、
名刺交換は意味を持ちます。
ここで、ある二つの会社の事例を紹介します。
一つ目の会社は、名刺の数を増やすことばかり考えていました。とにかく誰にでも声をかけ、試食を配り、
名刺を受け取ります。スタッフ全員に「名刺を百枚集めろ」と指示を出していました。
展示会終了後、五百枚の名刺が残りましたが、どこの誰が有力なバイヤーだったのか判別がつかなくなりました。
一斉に同じ内容のメールを送りましたが、返事は一通も来ませんでした。
これは、バイヤーを「名刺」でしか見ていなかった結果です。
二つ目の会社は、名刺交換をする相手を絞っていました。話した相手がバイヤーだとわかると、
その場ですぐに「今の売場で一番売れているのはどんな商品ですか」と質問しました。
相手が去った後、忘れないうちに名刺の裏へその答えをメモしました。
最終的に集まった名刺は三十枚でしたが、その一人ひとりに合わせた具体的な提案メールを送りました。
「先日、売場のスペースでお困りだと伺いましたので、省スペースで陳列できる方法をまとめました」といった具合です。
その結果、三社から「詳しい見積を出してほしい」と返信が来ました。
この差は、相手の「悩み」を掴んでいるかどうかです。名刺に書かれた名前や電話番号だけでは、商売は決まりません。
バイヤーが何に困っていて、どうすれば売上が上がるのか。その情報を聞き出すことこそが、
展示会でやるべき仕事です。名刺交換は、そのための入り口に過ぎないのです。
具体的にどう動けばいいか、さらに詳しくお話しします。
まず、名刺を受け取ったら、必ずその場で相手の担当部署を確認してください。
そして、商品のどこを一番熱心に見ていたかをメモしてください。価格なのか、中身の量なのか、
それともパッケージのデザインなのか。
このメモがないと、後で送る資料が的外れになってしまいます。バイヤーが「このパッケージ、
今の若い客層に受けそうだね」と言ったなら、フォローの資料では「若年層への訴求ポイント」を強調すべきです。
また、バイヤーに対して「ぜひ買ってください」とお願いするのはやめてください。
お願いされると、相手は逃げたくなります。バイヤーは、社長の情熱に負けて商品を買うわけではありません。
自分の売場の数字を上げるために商品を選びます。ですから、お願いをするのではなく、
バイヤーの仕事を助ける準備をしてください。上司に説明しやすいように、販売実績や具体的な利益の
シミュレーションを揃えてあげるのです。
バイヤーが社内の会議で「この商品を入れたい」と報告する姿を想像してください。
その時、上司から「それで、利益はいくら出るんだ?」「既存の商品と何が違うんだ?」と突っ込まれます。
その質問にバイヤーが即答できるように、こちらが資料を用意しておく。
これが、営業であり、社長の仕事です。
展示会は、会った後のフォローで勝負が決まります。そのフォローを成功させるためには、
会場にいる間の「準備」がすべてです。名刺交換をした瞬間に、次の商談の種をどれだけ見つけられるかが勝負です。
会ったその場で「次に何をすべきか」を決めてしまうのが一番です。「来週の何曜日に見積を送りますので、
その次の日に一度お電話してもいいですか」と、次の約束を取り付けるのです。
「おいしい」という言葉に安心しないでください。バイヤーは、美味しいものを探しているのではなく、
売れるものを探しています。美味しいのは、食品を売る上での最低条件です。社長の熱意を数字に変えて、
バイヤーが納得できる材料を渡してあげてください。毎日、何百という商品を見て、何百という「こだわり」を
聞かされています。その中で選ばれるためには、熱意以上の「納得感」が必要です。
もし、これまでの展示会で名刺が増えるだけで終わっていたのであれば、次からはやり方を変えてみましょう。
名刺の束を作るのではなく、一人のバイヤーと深い話をすることを目指してください。
相手の困りごとを解決する提案ができれば、地方の小さい会社でも、大手のバイヤーと対等に仕事ができます。
地方の会社には、大手にはない柔軟さや、独自のストーリーがあります。それを数字と組み合わせて提案すれば、
必ず道は開けます。
販路を開拓するのは、魔法のようなテクニックではありません。相手の話をよく聞き、相手が求めている情報を、
一番いいタイミングで届ける。その積み重ねです。展示会場での短い会話の中から、相手の求めているものを探り当てる。
そして、展示会が終わった後、その期待を上回るスピードと内容で応える。これこそが、商売を成功させる唯一の道です。
商談が進まないとき、多くの社長は「商品の良さが伝わっていない」と考えがちです。
実際は、「取引の条件が整っていない」ことがほとんどです。バイヤーが社内で通しやすい見積り、物流の仕組み、
販促の計画。これらを一つずつ丁寧に整えて提示する。その地道な作業こそが、地方の小さい食品会社が販路を
広げるための大切な戦略になります。
最後にもう一度言います。展示会は名刺を集める場所ではありません。バイヤーの悩みを聞き出し、
解決策を提案する約束を取り付ける場所です。その意識を持つだけで、展示会から生まれる売上は大きく変わります。
展示会で集まった名刺を、ただの紙の束にしないでください。そこに書かれた相手が何を求めていたか、
それを思い出すことが全ての始まりです。量より質です、名刺の枚数は関係ありません。
具体的には、展示会終了後、三日以内にアクションを起こしてください。その際、定型文の御礼メールではなく、
相手が口にした課題への回答を一点だけ添えてください。
それが「あのブースの社長だ」と思い出してもらうためのもっとも確実な方法です。
売上を上げるためには、確実な数字と、相手の利益を考えた提案、それだけがあれば十分です。
展示会が終わった後、三日以内に、相手の困りごとに合わせた内容で連絡をしてください。
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