見積で高いと言われたら売り先を変える|水産加工会社の事例


食品の販路開拓専門家・伊藤晴敏です。

静岡県にある水産加工会社の事例をお話しします。
この会社は、地元の市場から魚を仕入れ、加工して学校給食に卸していました。
毎日決まった量の注文があり、売上自体は安定していましたが、利益がほとんど残らない状態が続いていました。

学校給食の仕事は、一回の量が多いことが特徴です。
その分、価格に対する要求は非常に厳しくなります。
入札制度や予算の制限があるため、1円でも安く出すことが求められます。

魚の仕入れ価格が上がっても、こちらから値上げをお願いすることは難しい環境です。
どれだけ加工の効率を上げても、最後に手元に残るお金はわずかでした。
仕事をすればするほど、会社がお金を失っていくような状況でした。

この会社の社長は悩んでいました。
従業員の数も限られており、会社を大きく変えるような投資はできません。
新しい機械を買って生産性を上げる余裕もありません。

画期的な新商品を開発するような、開発担当者がいるわけでもありません。
今のままの設備で、今のままの人数で、どうにかして利益を出さなければなりませんでした。

社長が迫られたのは、一つの判断です。
「このまま安売りを続けて量を確保するか、それとも思い切って売り先を変えるか」です。

多くの会社は、利益が出なくなると「もっと安くしてでも、もっと多くの注文を取ろう」と考えがちです。
それに対して、この会社の社長は逆を選びました。

値下げ競争から降りるために、これまでの学校給食という大きな売り先を手放す決断をしたのです。
そして、新しい売り先として、工場のすぐ近くにある老人ホームにしぼりました。

なぜ、売り先を変えるという判断をしたのか。
それは、自分たちが持っている「高い技術」と「小回りのよさ」を一番高く評価してくれる相手を探した結果です。

この会社は、人数こそ少ないですが、魚を扱う技術は非常に高いものを持っていました。
他社が嫌がるような、いろいろな種類の魚を扱うことができ、それぞれの魚に合わせた最適な加工ができました。

それなのに、学校給食という場所では、その技術はほとんど意味をなしませんでした。
給食で求められるのは、決まった種類の魚を、決まった形に安く大量に加工することだけだったからです。

せっかくの技術が、宝の持ち腐れになっていました。
高い技術を持っているのに、それを安売りの道具としてしか使えていなかったのです。
これは、職人を抱える小さな会社にとって、一番もったいない状態です。

一方で、新しくターゲットにした老人ホームという売り先には、深刻な困りごとがありました。
これまでの老人ホームは、一度に仕入れなければならない量が決められていました。

さらに、発注も1週間以上前に決めなければならないというルールに縛られていました。
大きな卸業者と取引をすると、どうしても相手の都合に合わせるしかなかったからです。

老人ホームの現場では、入居者の体調が変わったり、急に入退去があったりするのが当たり前です。
1週間も前に献立を確定させてしまうと、当日の人数変更に対応できず、食材を捨てることが多くなります。

また、入居者の好みに合わせて、いろいろな魚を少しずつ出したいという思いもありましたが、
大きな会社の決まり事の中では、それもできませんでした。

そこに、この水産加工会社が目をつけました。
この会社は、他社がやらないような多くの種類の魚に対応でき、
さらに、お客さんごとに細かく加工を変えることができます。
噛む力が弱い方のための切り方や、骨を完全に取り除くといった、手間のかかる作業を高い技術で行いました。

そして一番の武器が、少ない量ですぐに届ける対応です。
「明日の分を数人分だけ変えてほしい」という急な要望にも、すぐに応えるようにしました。
工場の近くにある施設だけに売り先をしぼったことで、こうした無理な注文にも対応できるようになったのです。

この「他社がやらない手間のかかる加工」と「直前の変更にも応じる柔軟さ」は、効率だけを考える大きな工場では、
絶対に対応できない仕事です。
大きな会社が嫌がる「面倒なこと」をすべて引き受けることで、この会社は代わりのいない存在になりました。

結果として、学校給食に卸していた時よりも、一食あたりの単価を大幅に上げることができました。
なぜ、価格を上げても受け入れられたのか。
それは、老人ホーム側が「魚そのものの値段」ではなく、
「食材の無駄をなくし、自分たちの負担を減らしてくれること」にお金を払っているからです。

施設側からすれば、1週間前に決めた注文で食材を余らせる損や,
自分たちで細かく調理し直す人件費を考えれば、少し高くても要望通りに仕上げて直前に届けてくれる会社の方が、
結局はお得なのです。
「安さ」ではなく「困りごとの解決」を売ることで、価格の相談はこちらが主導権を握ることができました。

配送ルートも良くなりました。
以前は遠くの学校まで長い時間をかけて運んでいましたが、今は近くの施設を回るだけです。
移動時間が減った分、従業員は得意な加工の仕事に集中できるようになり、残業も減りました。
手間はかかりますが、その手間こそが高い利益を生むもとになったのです。

社長が判断するときに見るべきポイントは、今の仕事が「自分たちの技術と手間を本当に必要としているか」です。
もし、相手が「誰がやっても同じになる仕事」しか求めておらず、その上で「安さ」を求めているのであれば、
そこは御社のターゲットではありません。

小さな会社が生き残るためには、自分たちの「手間」を、価値として認めてくれる相手を見極める必要があります。
「手間がかかるからやらない」のではなく、「手間をかけるからこそ、高く買ってくれる相手はどこか」を考えることです。
そうすれば、ただ安いだけで利益が出ない仕事の奪い合いから抜け出すことができます。

大きな改革は必要ありません。
新商品もいりません。
ただ、「自分たちの高い技術を、安売りではない場所で使う」という判断を変えるだけです。

今のまま、技術を安売りして利益の出ない仕事を続けますか。
それとも、今の技術を高く評価してくれる相手へ売り先を変えますか。

社長、あなたならどうしますか。

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