まず最初に言います。
この記事に出てくるのは、三重県の和菓子会社です。この3年間で首都圏への出店をしていません。
ECサイトも持っていません。卸も止めました。SNSのフォロワーを増やす施策もしていません。
それで、利益が安定しました。
「だから地元密着が大事なんです」という話ではありません。それはたまたまの結果でした。
この会社が販路を絞ったのは、人が足りなかったからです。戦略というより、現実的な問題です。
どんな会社か
三重県内の和菓子店。創業40年以上。従業員は社長含めて8名。製造と販売を兼ねているため、
実質的に動かせる人員は常時4〜5名程度です。
売上規模は公表しませんが、地方の小さな菓子店としては平均的な水準。
ただ数年前から、採用がほぼできない状態が続いていました。ハローワークに出しても応募がない。
この状況で社長が考えたのは、「何かを増やす」ではなく「今の人数で回せる形にする」でした。
「首都圏に出ない」と決めた理由
当時、百貨店のバイヤーから声がかかったことがあります。催事への出店打診でした。条件は悪くなかった。
ただ、試算してみると採算が合わなかった。
催事に人を出すと、店舗の製造人員が減ります。製造が落ちると、既存の店頭在庫が薄くなる。
補充のために製造を無理させると品質がブレる。品質がブレると、地元の常連客が離れていく。
売上は一時的に上がるかもしれないけれど、店舗の安定が崩れる。そのリスクを取ることをやめました。
「催事に出ない」という結論は、単純に人がいないからで難しい戦略はありませんでした。
店舗以外の販売をすべて止めた
催事だけでなく、卸も止めました。地元のスーパーに一部納品していた商品があったのですが、これも縮小しました。
縮小しましたではなく、縮小せざるをえなかった。
理由は、卸の利益率が低く、対応コストもそれなりにかかっていたからです。発注対応、納品管理、請求処理。
人が少ない中で、これらは思った以上に負荷になっていました。
卸をやめると、その分の売上は落ちます。実際に落ちました。ただ、対応工数が減ったことで、
店舗の製造と接客に集中できるようになった。粗利率は上がっています。
「売上が下がった」は事実ですが、「利益が下がった」とは別の話です。ここが大事なところです。
SNSは最小限。既存顧客へのレターを続けた
SNSは現在もやっています。ただし使い方を絞っています。
投稿するのは開店情報と、季節の商品案内のみ。写真も特別凝ったものは用意しない。
フォロワーを増やすための施策はしていません。「バズらせる」という技術力がないんです。
代わりに続けているのが、既存顧客へのDM(紙のレター)です。
常連客や贈答での購入歴がある顧客に対して、季節ごとに案内を出しています。内容は商品案内と、その時期の話題を少し。
特別なことは書いていません。
ただ、これが一番リピートにつながっています。来店のきっかけを聞くと、「手紙が来たから」と答える人が多い。
SNSで新規を獲得するより、既存客に「また行こうかな」と思ってもらうほうが、このお店には合っていました。
人員的にも、新規対応より既存深耕のほうが負荷は低くなります。
新商品は作らない。パッケージを変えて単価を上げた
この3年間、新商品を出していません。人がいなく、お金もないので出せないのが実態です。
新商品開発には試作・原価計算・仕入れ先との調整・スタッフへの製造指導が必要です。小さな会社にとって、
これは思った以上に大変な作業です。売れるかどうかわからないものに、その工数を使う余裕がなかった。
代わりにやったのが、既存商品のパッケージ変更です。
売れ筋商品の箱を変えました。従来は簡素な紙箱だったものを、贈答にも使いやすい仕様に変更。
同時に価格も見直しています。
結果として、「贈り物に使いたい」という顧客の購入が増えました。同じ商品でも、贈答用途で選ばれると
単価が上がります。新商品なしで、客単価を上げることができました。
結果として何が変わったか
売上は微減しました。卸をやめたためです。ただ、利益率は改善しています。パートの残業は減り、
品質のブレも少なくなりました。常連客の来店頻度は横ばいから微増といったところです。
数字の派手な変化はありません。ただ、「毎月の売上が読めるようになった」と社長は言っています。
予測が立てやすくなった、ということです。
資金繰りの安定は、小さい会社にとっては利益率の改善と同じくらい大切なことだと思います。
「絞る」ことで何を捨てたか——正直に書きます
成功談ではなく結果論となります。
百貨店バイヤーとの関係は薄くなりました。卸先のスーパーには申し訳ない結果になりました。
SNS経由の新規顧客はほぼ増えていません。商品ラインナップは競合より少ない状態が続いています。
「選択と集中」は聞こえがいいですが、実際にはこういう捨てる痛みが伴います。
それを承知の上で、今の規模と人員で回せる形を優先した、ということです。
御社がいま、販路を広げることを検討しているなら、一度だけ考えてしみてください。
その販路に対応するために、誰が何時間動くか。既存の業務が圧迫された場合、生産数が落ちるか。
粗利率は、既存販路と比べてどうか。
「広げることが戦略」という前提を一度はずして考えると、判断が変わることがあります。
この三重県の和菓子会社がやったことは、特別な戦略でも何でもありません。今の人数で無理なく回せる範囲を決めて、
そこに集中しただけです。
それが結果として、利益と安定につながりました。
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