小さい食品会社では、社長自身が営業しているケースが普通です。
味に自信があって、パッケージも磨き上げて、いざ商談へ臨んだのに、なぜかバイヤーの表情がいまいち。
こういう場面で、原因が商品の質ではなく見積もり価格の背景にあることは、意外と多いものです。
販路を広げようとする中で、やりがちな落とし穴があります。
それは同じ商品なのに、売り場によって価格がバラバラになってしまう、という問題です。この価格のズレは、
バイヤーが最も避けるポイントのひとつです。
小売りのプロであるバイヤーは、自分の売り場に並ぶ商品の市場価格をよく調べています。
商談の席で「他でいくらで売ってますか?」と聞かれた経験を持つ社長も多いはずです。
そこで「場所によって価格が違う」ということを伝えます。バイヤーが気にするのは高いか安いかだけではありません。
この会社は、自社商品の価格管理がきちんとできているのかという、企業としての信頼性そのものを疑われるのです。
「同じ商品なのに値段が違う」という現場の実態
地方の特産品を扱う食品会社で、よく起きる事例を見てみましょう。
山梨県にあるこだわり調味料を例に挙げます。
百貨店の催事・常設売り場:1,620円(税込)
地元の道の駅・物産館:1,080円(税込)
自社のネット通販:980円(税込)
全く同じ中身、同じパッケージの商品が、買う場所によってこれだけ違う価格で並んでいる状態です。
それぞれに事情はあります。百貨店は手数料や家賃、接客サービスの維持コストがかかるため、
どうしても価格が上がります。物産館はお土産としての買いやすさを重視して、少し抑えた価格にする。
自社ECは「間に業者が入らないから直販の強みで最安値にしよう」と、ネット担当者が良かれと思って980円にしてしまう。
ただ、こうした状態のまま大手スーパーや高級スーパーに社長が見積もりを出すと、後で大きな問題になります。
バイヤーは、その商品がすでに市場でいくらで流通しているかを把握した上で、自分の店で利益が出るか、
お客さんに納得してもらえるかを計算しているからです。
価格差が引き起こす「ドミノ倒し」
価格のズレが放置されたまま流通が進むと、あちこちで綻びが出てきます。
- お客さんからのクレームと現場の混乱
いまお客さんは、買い物しながらスマホで価格をすぐ調べられます。百貨店で1,620円で買った調味料が、
帰宅後にネットで「メーカー直販980円」と出てきたら、どう感じるでしょう。
あるいは旅行先の物産館で1,080円で売っているのを見かけたら。
「なんでこんなに違うの?」という疑問は、やがて不信感に変わります。そしておかしいという感情が向くのは、
メーカーではなく高値で売っていた百貨店の売り場です。
- 売り場スタッフが困る
「ネットの方が全然安いけど、何が違うんですか?」
お客さんに詰め寄られたとき、一番困るのは店頭のスタッフです。
「中身は同じです」と言えば、なぜ高いのか説明がつかない。かといって「百貨店専用の品質です」と嘘もつけない。
その場は笑ってごまかしても、あとで必ず売場責任者に話が上がります。説明できない価格差は、
その場を取り繕えないスタッフを追い詰め、お店のイメージを傷つけます。
結果、その商品は「扱いづらい」と見なされていきます。
- バイヤーの不信感
こうした現場の混乱や顧客からのクレームがバイヤーの耳に入ると、話は一気に深刻になります。
次の商談で、バイヤーの顔つきが変わります。
「価格管理、どうなってます?」
ここで詰まる会社は多いです。バイヤーが怒るのは自分の店より安い店があるからだけではありません。
これだけ価格差があるのを知っていながら、なぜ何の説明もなく見積もりを出してきたのかという疑問です。
自社のお客さんからの信頼は、小売業にとって生命線です。それをこわすような価格管理をしているメーカーとは
安心して取引できないと判断されます。新規の売り場獲得どころか、既存の取引も縮小・打ち切りになりかねません。
バイヤーが本当に見ているもの
ここで誤解してほしくないのですが、バイヤーは「どの売り場でも1円まで均一にしろ」と言っているわけではありません。
チャネルによって価格戦略が違うこと自体は、よくある話です。
高級ホテルの売店とディスカウントストアで価格が違っても、消費者はある程度そういうものだと知っています。
問題なのは、説明のできない価格差が生じていることです。
バイヤーが見ているのは、提示された価格の高い・安いよりも、「この会社は自社製品の流通と価格を、
組織としてコントロールできているか」という点です。
たとえば商談で、「御社のECサイトでは980円ですよね。
うちの店でこの見積もりだと店頭で1,400円を超えてしまいますが、そのあたりどうお考えですか?」と聞かれます。
ここで、社長の口から
「あ、それはEC担当が勝手にやっていまして……」
「地元の物産館は昔からの付き合いで……」
と言い訳が出てきた瞬間、信頼は崩れます。
社長自身がトップ営業として来ているのに、自社の価格をコントロールできていないと思われてしまいます。
逆に、「百貨店では専用の販促資材を使うためこの価格帯を維持しています。ECは送料を別途いただいているので、
トータルの購入コストでは大きな差が出ない設計にしています」と答えられれば、
バイヤーの受け取り方はまったく変わります。
メーカー自身が把握していないところで、さまざまな価格で販売されていることに、バイヤーは厳しく警戒します。
なぜ現場で「価格のズレ」が起きるのか
こうした価格差のトラブルは、悪意から起きることはほとんどありません。社長もそれぞれの場所で目の前の売上を
立てようと必死に動いた結果、全体のつじつまが合わなくなるのです。よくある原因をまとめます。
社長が商談のノリで値引きを決めてしまう
「今月はどうしても大口の契約を決めたい」「競合をひっくり返したい」という一心から、社長自らが商談の場で、
その取引先だけに特売価格や低い仕切り値を提示してしまうケースです。
気づけば全体の価格秩序を自ら壊してしまいます。
催事の最終日に現場が投げ売りする
在庫を地元に持ち帰りたくないからと、催事の最終日の夕方に「半額」「まとめ買い割引」を勝手にやってしまう。
それを百貨店のバイヤーや、普段から定価で仕入れて売っている常設店の担当者が見たら、どう感じるか。
売り場の空気が一気に悪くなるのは目に見えています。現実はPOS管理なので価格修正はできないですが。
ECが戦略なく進められている
「ネットショップの売上を伸ばす」というミッションに集中するあまり、「限定半額」「常時10%オフ」を連発する。
ネット上の価格は全国のバイヤーがいつでも見られる、という感覚がないのが原因です。
卸先ごとの条件がバラバラのまま
創業当時からの取引先、新規のディスカウント系、地元の問屋……それぞれの事情で仕切り値がバラバラになり、
気づけば社内でも全体像を把握できなくなっている。これが原因で値崩れを引き起こすケースは後を絶ちません。
現場に社長の方針が伝わっていない
営業マンがいる会社では社長の頭の中では「安売りしない」という方針があっても、
直売所や営業のスタッフには届いていない。「売れれば社長も喜ぶだろう」と、相手の値引き要求に現場が応じてしまう。
価格のルールを会社全体で整える
大手スーパーや百貨店との安定した取引を目指すなら、価格の決定をその場の感覚や個人の裁量に任せず、
会社の明確なルールとして管理する必要があります。
まず手をつけるべきは、自社商品が今どのチャネルでいくらで売られているかを全部洗い出して一覧にすること。
その上で、各販売チャネルに役割を持たせます。
百貨店・高級スーパー → 贈答品・ブランド発信
一般スーパー・自社EC → 日常的なリピート
道の駅・物産館 → 認知拡大・観光客向け
それぞれの仕切り値の基準を明確にして、たとえ社長であっても例外を作らない。現場が動かせる値引きの上限を決めて、
それを超える場合は必ず会社としての正式な手続きを踏む体制を作ります。
商談でバイヤーから価格について突っ込まれたとき、社長自らが「弊社の流通方針として、各チャネルの価格は
こう管理しています」と自信を持って答えられる状態——それが競合他社との大きな差になります。
価格は「経営の方針」そのもの
見積もり価格の提示は、「いくらなら買ってもらえるか」という駆け引きではありません。
自社の商品をどう市場に届けるか、その会社の考え方そのものが出ます。
同じ商品があるお店では高く、別のお店では極端に安く売られている状態を放置すると、
商品の価値を自分で下げることになります。それだけでなく、商品を選んで並べてくれている小売店や、
買い続けてくれているお客さんへの裏切りにもなりかねない。
一度崩れたバイヤーとの信頼を取り戻すのは、時間も労力もかかります。
価格は、単に「売るための数字」ではありません。
会社全体の信用に関わる問題です。
価格のルールが曖昧な会社は、社内の連携もうまくいかなくなります。
バイヤーは、そういう社内の足元までしっかり見ています。
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